家族教室

2005年度第6回 家族会報/家族教室開催報告

2005年7月3日(日)16:00~17:00 ハートクリニックデイケアセンター
講 師:看護師(ハートクリニックデイケアセンター スタッフ)
テーマ:「心の病の看護~家族のかかわり~」

7月最初の日曜日、はっきりしないお天気のなか、22名と、大変大勢のご家族の方にご参加いただきました。

2005年の家族会、ちょうど折り返し地点となる第6回目は、「心の病の看護~家族のかかわり~」と題して、ハートクリニックの外来とデイケアを兼任する看護師より、心の病をもつ患者さんへの、家族のかかわり方について、その留意すべき点、医療スタッフからお願いしたい点、などについて、レジュメに基づいて説明されました。

なお、セミナーの内容充実のため、年頭にご案内したテーマを変更させていただきましたことを、ご了承ください。

家族のかかわりにおいて大切な点

心の病を持つ患者さんへ、ご家族の方がかかわる際、重要となるのは、いったいどのような点といえるのでしょうか?セミナーでは、大きく次の2点が挙げられました。それは、(1)病気に対する理解、(2)治療に対する理解、の2点です。順に、その2点がなぜ大切なのか、をまとめてみましょう。

まず、(1)の「病気に対する理解」についてです。これは、病気の種類(身体的なものでも、精神的なものでも)にかかわらず、共通することでもあると考えられますが、まず“敵を知ろう”ということです。たたかう相手の正体を知らずしてたたかえない、ということですね。なかでも、心の病気は身体的な病気や、怪我と異なり、ご本人が、どのようなことに苦しみ、困難を感じていらっしゃるのか、外側からは、なかなかわかりにくいところがあります。ですので、他の病気の場合よりいっそう、身近な存在である、ご家族の方の理解が、ご本人の病気の治療に大きな力を発揮するのです。

次は、(2)の「治療に対する理解」についてです。ともにたたかう相手のことがわかったら、次に必要となるのは、その相手を打ち負かすために有効な手段には、どのようなものがあるのか、そして、その手段は、どのような手順で行われるべきものであり、どのような効用があるのかを知る、ということなのではないでしょうか?手段について、正しく理解できれば、より効果のある方法を、適切に、そして、先の見通しをもって用いることができるでしょう。 それでは、心の病気の治療法の中心は、何なのでしょうか?

心の病の治療法(薬物療法)

医師の指示のもと、行われる心の病の治療法としては、さまざまなものがあります。4月の家族教室の内容から引けば、たとえば、グループセラピー、認知行動療法、行動療法、リラクセーション、プレイセラピー、表現療法、森田療法、内観法、精神分析、アニマルセラピー、精神科デイケアがその代表的なものとして挙げられます。しかし、数ある治療法の中で、その中心となるのは、薬物療法です。上で挙げたような治療法は、殆ど全て、薬物療法を行った上で、それと並行して、薬物療法の補助的な手段として用いられるものといって良いでしょう。

となると、ご家族の方にまず必要となるのは、まずは、薬物療法についてのご理解・ご協力ということが言えるかも知れません。ここで、セミナーでは詳しくは述べられなかった、心の病気になぜ、薬による治療が必要か、といったことについて、また、服用の注意点について、説明を加えたいと思います。

かつて、「心」の病気は、病気として扱われず、どこか得体の知れないもの、として扱われてきました。物理的な現象とは無縁の存在、と考えられてきたのです。もしかしたら、まだ、皆さんの中にも、そうした、「心」に対する漠然とした思いをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。ですので、心の病気の治療に薬物を使用する、というと、違和感をお持ちになる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、科学技術の進んだ現代では、私たちの「心」も、決して物理的な現象と無縁の存在ではないということがわかってきました。たとえば、うつ病の患者さんの色々な症状は、脳内のセロトニンとノルアドレナリンという物質の働きが低下していることが一因となって起こっている、ということがわかってきました。そのため、治療の際、この一方、あるいは両方の働きを回復させる働きをもった薬を服用することにより、より短期に、また確実にうつの症状を軽減させることができるようになったのです。他の病気の様々な症状に関しても、同様のことが言えます。物理的な現象であるものに対し、「薬」という物理的な存在で臨むのは、ある意味、当然であり、必要であると言えますよね。

このように、薬物治療の目的は、姿ある、脳内の物質に直接的に働きかけることによって、症状のコントロールと軽減を目指すことにあります。しかし、薬を服用したからといって、一夜にして症状が回復する、といったことはないようです。薬を服用される際に常に頭においておかなくてはならないのは、「症状の回復には時間がかかる」という点と言えそうです。変化が実感されるまでは、大抵の場合、数週間から数ヶ月の時間が必要、との見方が一般的なようです。時間の余裕をもって臨むことが大切なのですね。

また、「症状がよくなっても、服用を続ける」ことも重要です。心の病気は、再発・慢性化することもある病気のようです。症状が軽くなっても、医師の指示があるまでは、自分の判断で勝手に服用を中断しないことが、確実に病気を治すためには、重要な点です。せっかくの回復への道、無用な後戻りはしたくないものです。そして、薬の量に一喜一憂しない、ということも、頭の隅においておくと良いかもしれません。心の病気の治療に使う薬は、基本的には少量から始めて徐々に量を調整していくのが普通です。ですので、途中で薬の量が増えたからといって、即、病状が悪化したと考える必要はないのです。更に、薬を服用する際の注意点として、副作用があります。これは、もしかすると、いちばん気になる点かもしれませんね。全ての薬には、残念ながら、必ずと言っていいほど、副作用が存在するようです。心の病気に用いられる薬の副作用としてよく見られるものには、めまいや吐き気、口の渇き、眠気、手などのふるえ、便秘などがあります。もちろん、全ての方に現れるわけではありません。また、そうした副作用を抑えるのに有効な薬がある場合もあります。気になる症状が現れたら、早めに主治医に相談することが大切です。

服薬状況の実際(アンケートより)

セミナーでは、デイケアに来所されているメンバーさん(総回答人数30名)にご協力いただいたアンケート結果に基づき、実際に薬を服用されている方の声が紹介されました。アンケートでは、服用している薬の数、医師の指示通りに服用できているかどうか、薬の管理は誰が行なっているか、そして、診察時に家族の同席があるかどうか、の4点について回答をお願いしました。その結果、大半の方が複数の種類の薬を処方されていること、概ね医師の指示通りの服用をしていること、薬の管理は自身で行っていること、そして、多くの方が、少なくとも過去に一度は、ご家族の同席を得て、受診されていることがわかりました。

これらのことから、心の病気の治療の特徴として、多くの薬が併用されていること、それらの薬を多くの方は、しっかりと管理し、主体的にご自分の症状をコントロールしていること、そして、ご家族の方の協力を得られていること、を窺い知ることができますね。

また、セミナーでは、前回の家族会に参加頂いたご家族の皆様(総回答人数11名)にご協力頂いたアンケートの結果も、併せて紹介されました。こちらのアンケートでは、病気について、ご本人と話すことがあるかどうか、ご本人に処方されている薬の内容を知っているかどうか、ご本人の服薬について困ったことがあるかどうか、薬について疑問はあるか、という点について回答をお願いしました。その結果、ほぼ全ての方が、その頻度に差こそあれ、日常の場面で、ご本人と病気について話をされていること、処方内容をご存知であること、処方されている薬の服用について、困難を感じることはあまりないが、副作用に対する不安や、その効果について、なかなか効果が現れないのに服用を続けてよいものなのか?などといった疑問も感じていらっしゃることがわかりました。

これらのことから、ご家族の方も、多くはご本人の病気に対して関心を持ち、その治療に実際に協力されている様子、そしてご本人を思いやるお気持が窺えます。セミナーでは、薬の効果や副作用について、治療についての疑問は、ためらうことなく、何でも、医師にぶつけてみることが大切、と説明されました(ハートクリニックには、4人の医師が勤務しています。“セカンド・オピニオン”も積極的にご活用下さい)。

先述の通り、医師の指示によらない治療の中断は、却ってご本人の回復の妨げになってしまいます。思い切って、医師に相談してみましょう。

まとめにかえて

今回のセミナーでは、ご家族の、ご本人の病気や治療に関する関心の高さ、また、薬を服用することへの疑問や不安をお持ちであること、が強く感じられました。

ご本人を思いやるあまり、ついつい辛くあたってしまったり、どうしたら良いのか、途方にくれてしまうこともあるかもしれません。確かに、心の病気の治療には、近くで接するご家族の存在がかかせません。しかし、あまり肩肘はらずに、ゆとりを忘れずに、ご本人の様子をそれとなく“気にかける”位置にいてあげること、“一緒に治していこう”という気持を持っていることが重要なのではないでしょうか。

余談になりますが、当院の医師からは、月1回程度、受診の際にご家族の同席が頂ければ・・・とのコメントが寄せられています。

心の病気という目に見えにくい敵とたたかうために、ご本人、医師、医療スタッフ、そしてご家族で“チーム”を組んで、取り組みたいものですね。

2005年度第6回 家族会報/定例会報告

日 時:2005年7月3日(日)17:00~18:00
場 所:ハートクリニックデイケアセンター

大型連休に重なる日程となったにもかかわらず、19名と、多数のご家族の方々にご参加いただくことができました。診察時間の延長のため、やや遅れて会場に入った浅井先生の簡単な挨拶の後、早速、講演が開始されました。講演は、参加された方に予め配付されたレジュメに基づき、スライドを使用して行われました。

今回は初めて家族教室に参加される方が多かったためか、非常に緊張されている様子がうかがわれましたので、まず、スタッフが自己紹介を行い、グループの進めかたや、「対応に困っていること」をこうしたグループでディスカッションすることの意義、を説明致しました。そして、ご家族の方にも順番に自己紹介(お名前・患者さまの様子等)をして頂きました。

ご家族の方のお話から、日々、患者さまと接している中で、様々なご苦労があるのだ、ということと同時に、すでにご家族なりに対処を考えて、心の病気からの回復には、比較的長い時間がかかるのだから、ゆとりを持つことが大切、という意見が少なからずあがったことが、大変印象深く感じられました。

その後、簡単にではありましたが、実際に「対応に困っていること」「参加されている皆さんの意見を聞いてみたいこと」などについて、テーマを挙げて頂き、ディスカッションをすることにしました。

遠慮や緊張がおありだったのでしょう。なかなかすぐにはテーマが出ませんでしたが、徐々に「(患者さまに)自分の身の回りのことを色々やってもらいたいが、どのようなタイミングで声をかけたらいいのか?」「その際に(患者さまが)やりたくないと言ったら、どこまで強制して良いのか?」「(患者さまの)きょうだい関係をうまくやっていくには?」などのテーマが出されました。皆さん、それぞれの立場から、色々な意見やアイディア、体験をお話しされました。そうした中で、スタッフが感じたことは、次のようなことでした。例えば、普段、ついつい患者さまの「できていない点」に目がいきがちになるけれども、お話が進んでいく中で、「出来ている点も多いのではないか」という意見が出てきたり、患者さま自身は「やりたくても(症状や薬の副作用のため)出来ないのでは?」との意見、実は「やりたいというサインを出しているのではないか」という意見が出てきたり、また、「きょうだい関係をうまくいかせるには、とにかく、病気への理解。時間はかかるが、必ず、わかってくれるのでは」など、少しずつ患者さまや問題に対する見方が(否定的ではなく)肯定的になってきているということです。

また、「自分と同じようなことに悩み、そして、乗り越えられた方がいる」との、心強い思いを持たれた方も多くいらっしゃったようです。

ご家族がいちばん、患者さまと接する時間が長く、実は患者さまの「良い面」「できている点」をよくわかっていらっしゃるのだと思います。しかし、病気との長い付き合いの中では、ついつい患者さまの「病気」に巻き込まれてしまい、そうした点を見落としがちになってしまうのも仕方のないことだと思います。限られた時間ではありますが、話し合うことによって、ご家族自身が少しでも元気になり、前に進んでいくことができれば、と思います。また、グループディスカッション担当スタッフとしても、その点をお手伝いしていければ、と考えております。ぜひ、この場をご活用下さい!!