家族教室

2005年度第8回 家族会報/家族教室開催報告

2005年9月4日(日)16:00~17:00 ハートクリニックデイケアセンター
講 師:剱持 慈子(ハートクリニックデイケアセンター スタッフ)
テーマ:「ストレス・マネジメント」

第8回の家族教室開催にあたりまして、ご案内の発送時、一部のご家族さまに、誤った書面を送付いたしましたことを、深くお詫び申し上げます。まことに申し訳ございませんでした。今回の家族教室には、上述のような手違い、及び、ご案内の発送が遅れたにもかかわらず、13名のご家族の方にご参加頂くことができました。

今回は、「ストレス・マネジメント」とのテーマで、私たちが日常的に聞きなれている“ストレス”について、そして、そうしたストレスとの付き合い方について、改めて考える内容となりました。

ストレス・マネジメントとは?

これをお読みになっている皆さんは、“ストレス・マネジメント”という言葉を聞いたり、目にしたことがあるでしょうか?

私たちが感じる不安や悩みの多くは、精神的ストレスに原因があると考えられます。ストレスは、全ての人間が、日々、経験しているものですが、普通、考えられているように、「悪い出来事」からだけ、生じるものではありません。たとえば、恋愛をしたり、長年の夢を実現したり、という、客観的には「良い出来事」であっても、人間が適応しなければならない環境の変化は、全てストレスを引き起こし得るのです。

こうした環境の変化は、人間が生きている限り、必ず起こるものですから、どんな人間でも、ストレスを「なくす」ことはできません。

では、どうすれば、ストレスを和らげ、不安や悩みを解消することができるのでしょうか?その秘訣は、ストレスというものを知り、それをコントロールする術を身につけることにあるのです。これを、“ストレス・マネジメント”と呼びます。つまり、簡単に言ってしまうと、“ストレス・マネジメント”とは、“ストレスを上手にしのぐこと”と言えるでしょう。

ストレスとは?

“ストレス”という用語自体は、もともとは物理学の擁護で、物体に外的な圧力が加えられて“ひずみ”が生じた状態のことを言うようです。これを医学的に用いるときには、「外圧に対して、身体が懸命に持ちこたえようとする防御反応」と解釈されます。本来は、外圧のことをストレッサー、ひずみのことをストレスといいますが、一般的には、どちらもストレスと呼ぶことが多いようです。

ストレッサーがあると、私たちの心と身には、さまざまな反応が現れます。この反応をストレス反応と呼びますが、私たちの周りの、あらゆることがストレッサーとなります。たとえば、「暑い」というストレッサーがかかると、私たちの身体は「汗をかく」というストレス反応を起こします。

ストレスの種類

ストレスは、大きく分けて、精神的なものと、身体的なものに分けられます。

更に、精神的なストレスは社会的ストレスと心理的ストレスに、身体的ストレスは外的ストレスと内的ストレスに分けることができます。社会的ストレスは、仕事や家庭、学校、そして人間関係にまつわるもの、心理的ストレスは、不安や恐怖、怒りや心労など、感情にまつわるもの、外的ストレスは暑さや寒さなど、環境にまつわるもの、内的ストレスは身体にまつわるもの、まとめることができるでしょう。

ストレスがかかると・・・?

私たちの身体には、外から強い刺激がかかったとき、それに反応して、生体を安定した状態に保とうとする機能が備わっています(ホメオスターシス)。カナダの生理学者ハンス・セリエは、ストレスを受けた際の人間の反応を「全身適応症候群」と名づけ、3つの段階に分けて説明しています。

  1. 第一段階:警告反応期
    ストレスを受けたショックで、体内の血圧や血糖が下がり、身体の機能が一時的に低下する(ショック相)。そしてこの状態が数分から一日ほど続くと、身体がストレスに対して反撃を開始(反ショック相)。このとき、血圧、血糖、体温は上昇し、神経や筋肉の働きも活発になる。
  2. 第二段階:抵抗期
    身体はストレスに打ち勝とうとして戦い続けている時期。このとき、通常よりも抵抗力は強まっており、のしかかっているストレスをバネにして、意欲的に活動することができる。
  3. 第三段階:疲はい期
    身体がストレスとの戦いに敗れ、疲労困憊してあえいでいる状態。当然、身体の自動調節機能であるホメオスターシスは働かなくなっている。この段階までいくと、うつ病、心身症、外傷後ストレス障害(PTSD)など、ストレスが原因の心の病気が発症する可能性が高くなる。 さて、心身に極度のストレスがかかると、心の病気などを引き起こすほかに、困ったことが起こります。それは、私たちのものの見方や考え方が、驚くほど狭くなってしまう、ということです。
    セミナーでは、心理学でよく引用されるエピソードが紹介され、ストレスが加わることで、私たちがいかに柔軟性を失い、狭い考え方に固執するかということが示されました。そして、そうした状況にあるとき、「別のやり方ならどうなるかな?」と考えることさえできれば、ストレスフルな状況から脱することができるかもしれない、ということなのです。ここはとても重要です!

ストレスは悪者か?

何をいまさら、と思われるかもしれません。ストレスといえば、即、心身に有害なものと考えがちです。

しかし、ストレスの全くない生活というものを想像してみてください。それは何ともハリのない、味気ない生活なのではないでしょうか。たとえば「期日までに仕事を完成させること」というノルマを課せられたとき、責任感やあせり、不安がストレスとなってのしかかります。しかし、そのストレスがあるからこそ、ノルマを達成する意欲が湧いてもくるのです。

このように、その人にとって適度であるとき、ストレスは活動の原動力となることも忘れてはいけません。

ストレッサーと評価

精神的ストレスをストレスと感じるか感じないか、それは人によって異なります。同じストレッサーを受けても、「辛い」と感じる人もいれば、「どうってことない」と感じる人もいます。

こうした、ストレッサーに対する「辛い」とか「どうってことない」といった心の働きを“評価”と呼びます。ストレッサーがダイレクトにストレス反応を引き起こすのではなく、実は、そこには、私たちの“評価”が介在しています。この“評価”如何で、その後のストレス反応が決定づけられるのです。

ストレス・コーピング

私たちは、ストレッサーやストレス反応を認識すると、それらを何とかするために、通常、なんらかの行動を起こします。これを「ストレス・コーピング」といいます。例えば、「非難される」(ストレッサー)と「不愉快だ」(評価)と感じ、「イライラ」してきます。この「イライラ」をどうにかするために、相手に「反論」したり、「キレて物にあたった」りするかもしれません。この「反論」や「キレて物にあたる」という行動がコーピングです。

さて、このコーピングには、適切なものと不適切なものがあります。上の例を見てみましょう。「反論」というコーピングを行なった場合と、「キレて物にあたる」というコーピングを行った場合、その行動がもたらす結果には、違いがありそうだ、ということは、容易に想像できるのではないでしょうか。上手に反論すれば、相手に自分の本心や考えを伝えることができ、イライラや不快感を解消することができるかもしれません。しかし、キレて物に当たってしまうと、それを見た相手が、更に文句を言い出すかもしれません。そうなってくると、それがまた新たなストレッサーとなって・・・と悪循環に陥ってしまいます。このように、不適切なコーピングは、悪循を招きますが、適切なコーピングは、ストレッサーそのものを解消したり、ストレッサーに対する評価を変化させたり、ストレス反応に対しては落ち着かせたり、と、それぞれの段階に働きかける可能性を持っています。こうした適切なコーピングの方法を知っておくことも、ストレスと上手に付き合う一つの方法です。

では、ストレス・コーピングには、どのようなものがあるでしょうか。

コーピングの種類

ストレス・コーピングの種類は、大きく5種類に分けることができます。以下に、それぞれの方法について、列挙してみましょう。

1. ストレッサー自体をコントロールする

  • •適切な自己主張をする
    自分の気持ちや考えを、人に素直に伝えることを自己主張といいますが、自己主張をしないと誰もあなたのことをわかってくれませんし、相手のいいなりになってしまうこともあります。
  • •我慢する
    取り除けないストレッサーに対しては、しばらく我慢をすることも考えてみましょう。
    これが効を奏すれば、我慢の体験で、いつの間にか、ストレッサーに強くなることができるかもしれません
  • •逃げる、避ける
    我慢できそうにないストレッサーが来そうなときには、逃げてみたり、避けてみたりすることも考えてみましょう

2. ストレッサーに対する評価を変える

  • •当たり前に考える
    私たちは、だいたい、自分勝手な考えをもってしまいやすいものです。だれかから非難されたりすると、情けない気分になったりするものですが、その原因は、人が非難した、というからではなく、「人から非難することなどあってはならない」とか「失敗してはいけない」という「理にかなわない考え」が原因です。ですので、そうした「誤った思い込み」を見直すことによって、つまり、「非難されることもあるにきまっている」という考えに修正することによって、ストレスをストレスとして感じなくすることができます。こうした誤った思い込みの直し方としては、ストレス反応がでたときに、その人や場面について、自分がどのような感情を持ったか、ということを思い返してみることが有効です。
  • •前向きに考える
    起こった出来事を、別の側面(=良い面)から考えてみます。
  • •自分に優しい言葉を使う
    あなたが自分にいいきかせている言葉を振り返ってみましょう。「やはり私はだめだ」とか「うまくいかないのは自分のせいだ」、「やってもむだだ」といった自分を打ち負かすような言葉をよく使っているなら、それはストレスをどんどんためるだけです。

3. 気分を鎮める

ストレッサーに対して、「嫌だな」と評価してしまうと、気分(心)影響がでて、不安になったりイライラしたりします。このような気分を鎮めると、すっきりとしてずっとらくになり、冷静な判断ができるようになります。気分に対するコーピングは「リラックスした状態をつくりだすこと」です。

4. 身体の興奮を鎮める

運動やスポーツで身体を動かせば、身体のストレス反応をなくしたり、少なくしたりすることができます。その上、身体を動かす習慣を持てば、体力も増し、ストレッサーに強いからだになります。ストレス解消のスポーツは、自分の好きなものを選ぶことが大切です。また、人と競争するためではなく、楽しんですることが大切です。

5. 社会的支援

評価、心と身体のストレス反応全てに役に立つコーピングがあります。それは、人からの助け(社会的支援)です。
これは、ストレッサーに対しては、他の人が、そのストレッサーに対し、避けたり弱めたりできる方法を教えてくれれば、ストレッサーの威力は減ります。また、評価の段階については、励ましてくれたり、ストレッサーについての別の見方を教えてくれれば、自身の評価を変えるヒントになります。心に対しては、相談にのってくれたり、感情を受け止めてくれたりすると、心がやすまります。

まとめにかえて

ストレスは、私たち人間が生活する上で、避けて通れないものです。また、悪玉として見られがちなストレスは、実は、私たちが生きていく活力の源にもなっているものです。どうせなら、ストレスを恐れてばかりいないで、上手にコントロールし、張りのある、快適な生活を送りたいものですね。

2005年度第8回 家族会報/定例会報告

日 時:2005年9月4日(日)17:00~18:00
場 所:ハートクリニックデイケアセンター

今回は、12名のご家族の方にご参加いただきました。今回はグループを2つに分けて行ないました(リーダ-はデイケアスタッフの剱持と池沢が担当しました)。

まず、初めて参加される方もいらっしゃいましたので、前回同様グループディスカッションの意義(「皆で体験を共有する場」「問題に対する対処能力を上げる」「他の参加者にヒントをもらう」など)を説明し、全員で順次、自己紹介(名前・患者さまの様子など)を行った後、現在、困っていることや、他のご家族の方に聞いてみたいことなどを話し合いました。

今回のディスカッションでは、剱持グループは『患者さまへの接し方について』、池沢グループは『家族が患者さまをどこまで引っ張って行けばよいのか』というテーマが出され、その後、各グループで話し合いを行ないました。
各グループで話し合われた内容を少しご紹介いたしますと、『患者さまへの接し方について』では、主治医に「普通のやり取りがいい」と言われたけれども、「普通のやり取り」とはどういうものか?また、普通に接するようにすると不自然でぎこちなく患者さまに感じられてしまい、「普通のやり取り」はとても難しいというものでした。このことについて、参加されているご家族から色々な意見や実際に患者さまと接しての経験が話され、「やり取りには段階があるのではないか」という話が印象的でした。

『家族が患者さまをどこまで引っ張って行けばよいのか』では、「患者さまに対してのご家族の希望は何か?」「患者さま自身の目標は?」ということに焦点があてられて、他のご家族から経験談や、ご家族の患者さまに対する将来の希望、それを実現するためにご家族自身も地域の活動に目を向けるようになってきているという話が出ました。色々とやり取りがなされる中で、「家族が本人を引っ張るというよりは、家族も本人と一緒に病気と付き合っていく」という視点が大切なのではという意見が出てきました。

我々スタッフも日々患者さまと段階を踏んで、共に歩んでいくという考えで業務を行なっていますが、ともすると忘れがちになってしまいます。今回、グループワークを行い、もっとも基本的であり、もっとも重要な視点をご家族の話の中で再確認させられた気がします。