家族教室

2008年度第6回 家族会報/家族教室開催報告

2008年7月6日(日)16:00~17:30 ハートクリニックデイケア

講 師:剱持 慈子(ハートクリニックデイケア/臨床心理士)

テーマ:「不安障害について」

第6回の家族教室は、大変暑い日の開催となりました。テーマは「不安障害について」とのことで、主に「社会不安障害」について、デイケアスタッフ(臨床心理士)の剱持より、お話をさせていただきました。

不安とはなんでしょうか?

不安障害についてのお話に入る前に、まずは、「不安」とはそもそも何なのか、ということから始めたいと思います。

不安は本来、脅威や精神的ストレスに対する正常な反応で、誰でもよく経験するものです。自分に危害が加わるかもしれない状況に直面したとき、人は強い不安や恐怖を感じます。同時に身体が硬直したようになったり、小刻みに震えたり、動悸が激しくなったりします。こういった心身の変化は、自分の身を脅かす状況に飲み込まれてしまわないように、「逃げる」か「闘う」か、アクティブな行動を起こすために必要な反応なのです。不安や恐怖は、確かに不快な感情ではありますが、一方で、私たちが自分の命を守るための、防衛システムを起動させるスイッチでもあるのです。

不安障害という病気

不安障害は、その人の客観的な状況から考えて、不釣合いなほど激しい不安が慢性的、かつ変動的にみられる状態のことを言います。そして不安を主な症状とするいくつかの病気が、「不安障害」という大きなカテゴリーの中にまとめられています。たとえば、「全般性不安障害」「パニック障害」「強迫性障害」「恐怖症」「心的外傷後ストレス障害」「社会不安障害」などが主なものです。

社会不安障害

セミナーでは、不安障害の中から、「社会不安障害」を取り上げ、その一般的な症状、症状維持のメカニズム、経過などのお話をさせていただきました。

これをお読みの皆さんは「社会不安障害(SAD)」という病気の名前を知っていますか?まずは、社会不安障害がどのような病気か、ということについてご紹介します。

人前で何かする、初対面の人に会う、といった状況では、多くの人が緊張を感じるものです。これを「社会不安」と呼びますが、これは、一般によく見られるもので、むしろ、あって当たり前の不安です。しかし、その緊張が極度であるため、非常に苦痛を感じていたり、あるいは、その人らしい生活を送れなくなっていたりするときに、「社会不安障害」として治療の対象になってきます。

「社会不安障害」は、近年まで、“本人の性格的な問題”と片付けられてきてしまった感が否めません。そのため、その苦しみを訴えられずにいる方も大勢いらっしゃいます。しかし、「社会不安障害」は放っておくと不安や恐怖を感じる場面がひろがっていき、うつ病やパニック障害など、他の病気を併発する恐れのあることが、わかってきました。まずは、「社会不安障害」を、治療すべき疾患である、と正しく認識することが、大切です。

苦手とする場面(症状)

同じ「社会不安障害」の方たちでも、それぞれに苦手とする状況は異なることも多くあります。代表的な場面には、次のようなものがあります。

(1) 「人前で何かをする」状況

  • •人前で話せない
  • •電話に出るのがこわい ・人前で字を書けない ・人と一緒に食事できない

(2) 「相手との関係」

  • •目上の人の前で話せない
  • •初対面の相手と話せない
  • •1対1になるのがこわい
  • •“顔見しり”程度の集まりがいや

(3) 「自分の生理現象」

  • •人前でおなかが鳴るのではと心配
  • •近くに人がいると排尿できない

(4)「視線」

  • •他人の視線がこわい
  • •自分の視線が不快感を与えているようで怖い

(5)「人との接触そのもの」

  • •他人の反応に過敏
  • •家以外でくつろげない
  • •どこにいても孤立
  • •コミュニケーションの取り方がわからない

さて、「社会不安障害」の基本的な症状は、上に挙げたような、社会的場面での心理的な問題です。

しかし、それと同じくらいにやっかいな症状として、身体症状を挙げることができます。 「社会不安障害」では、苦手な状況や場面に遭遇した際、たとえば、「顔が赤くなる」、「汗がダラダラ出てくる」、「手や身体が震える」「顔がこわばる」などのさまざまな身体症状が現れます。

不安や恐怖は、人間の身体に様々な身体反応を引き起こすもので、それ自体は、人間にとって、自然で、正常な反応です。しかし、「社会不安障害」では、そうした身体反応を強く自覚することによって、更に緊張感を覚え、「またあの症状が出てしまう」というおそれが高まり、ますます苦手な状況に対する苦手意識を強めてしまう、という悪循環が生じることがままあります。つまり、精神的な症状によって引き起こされた身体症状が、更に精神的な症状を悪化させる、ということです。

陥りがちな経過

社会不安障害を抱える人は、不安や恐怖、緊張のあまりさまざまな症状を呈してしまう自分が、他者の目からどのように見られているか、を非常に気にします。

その結果、さまざまな症状を呈している自分が、他の人から「変な人」、「頭の悪いやつ」などと思われることを極度に恐れ、苦手な状況に陥らないよう過剰な用心をし、苦手な状況を回避する傾向があります。こうして、苦手な状況を避けるという行動を繰り返していくと、社会的に十分な評価を得られなかったり、更に孤立してしまうなど、大きな弊害を生むことになります。

「社会不安障害」は特別な病気?

「社会不安障害」は、決して珍しい病気ではありません。

「社会不安障害」が病気として認識されるようになってから、まだあまり歴史がありません。そのため、調査方法などによって数字は大きく変わりますが、それでも、10人に1~2人は同じような悩みを抱えているといわれています。これは「社会不安障害」が決して珍しい病気ではないことを示しています。

まずは「自分だけがヘンだ」という思い込みを捨てましょう!

発症の原因

「社会不安障害」の発症の原因を「これ」とひとつに特定することは困難です。その人の持っている、不安を感じやすい体質や、育ち方、社会的場面での経験など、いろいろな要因が影響を及ぼしあって、「社会不安障害」は発症します。「なぜ、自分はこんなふうになってしまったのか」という原因探しは、症状の改善にはあまり役に立ちません。それよりも、改善に役立つのは、今、そしてこれからのために、何ができるのか、を探ることではないでしょうか。

治 療

「社会不安障害」というと、“心の問題”のみがクローズアップされがちですが、ご本人の悩みの種となっているのは不安を感じた状況で現れる身体症状であることも少なくありません。心と身体の悪循環を断ち切るために、治療では、心身両面からのアプローチが有効です。

「社会不安障害」の治療で用いられるお薬の代表的なものは、次の3つです。

(1)身体の症状に・・・ ・β遮断薬

交感神経の働きを抑制する作用があります。もともとは動悸を抑えたり、血圧を下げる目的でつかわれるお薬です。必要時のみの使用が一般的です。

(2)不安を軽くするために・・・  ・抗不安薬

過剰な不安感を和らげる働きがあります。即効性が特徴で、定期的に服用することもありますが、頓服薬として使用することも多くあります。

(3)行動パターンを変えるために・・・ ・SSRI

社会不安障害の薬物療法の基本となる薬で、抗うつ薬の一種です。不安を生じにくくさせることから、回避行動の減少が期待できます。定期的な服用がすすめられます。

もちろん、実際の治療では、その人に合わせて、いろいろな組み合わせで薬が処方されます。種類や飲み方が人と異なっていても心配することはありません。主治医と相談しながら、正しい服用を心がけましょう。

「社会不安障害」の治療において、心に働きかけるアプローチとして近年クローズアップされているのが、認知行動療法です。

「社会不安障害」でみられる典型的な行動パターンは、「回避行動」です。この「回避行動」の背景には、その人独特の考え方(物事の受取方)があります。「社会不安障害」の方には、その考え方(受け取り方)自体に偏りがあることが多くあります。「認知行動療法」は、こうした考え方(受け取り方)の偏りを修正するとともに、これまで回避し続けてきた状況に立ち向かう方法を学習し、新たな行動パターンを獲得することを目的とした治療法です。「社会不安障害」では、薬物療法とともに、こうした精神療法を併用することで、より一層の治療効果を期待することができます。

最後に

「社会不安障害」は、治療可能な病気であると認識されないまま、長い間放置されてきました。そのため、若いころに発症していたにも関わらず、「自分の性格の問題だから・・・」と半ばあきらめて、“なんとか”社会生活を営んできた方も多いことでしょう。

しかし、いくつになっても治療は開始できます。過剰な不安に苦悩することがなくなれば、“なんとか”社会生活を営めるのではなく、社会生活を楽しんで送ることができるようになります。「今更」とためらわず、ぜひ、治療にのぞんでください!

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