家族教室

2008年度第10回 家族会報/家族教室開催報告

2008年11月2日(日)16:00~18:00 ハートクリニックデイケア

講 師:池沢 佳之/ハートクリニックデイケア(精神保健福祉士)

テーマ:リハビリテーションと就労支援について

2008年第10回の家族教室は、「リハビリテーションと就労支援について」とのテーマで、リハビリテーションの概念や、精神科領域で行われるリハビリテーションについて就労支援と絡めながら、当院デイケアスタッフ(精神保健福祉士)よりお話をさせて頂きました。当日は、従来に比べて、男性の参加が目立ったのが印象的でした。

リハビリテーションとは?

皆さんは、「リハビリテーション」と聞くと、どんなことをイメージされるでしょうか?

語源的には、リハビリテーション(rehabilitation)とは re-(再び)habilis-(適した・ふさわしい)ation(にすること)という言葉の組み合わせです。すなわち、何らかの障害により、日常生活を送ることに困難が生じた場合に、それを解決し、克服していくことがリハビリテーションです。

ともすると、「リハビリテーション」と聞くと、骨折などをした場合に、歩行訓練を行ったりする姿をイメージしがちで、精神科とは無縁のものと思われがちです。しかし、いわゆる“こころの病”と呼ばれる病気においても、「リハビリテーション」は非常に重要な役割を果たします。全員の方が、というわけではありませんが、“こころの病”を経験した方の多くは、症状が軽減したからといって、即、その人らしい生活を取り戻すことができるわけではない、という現実があります。それは、病気によって、その人が本来持っている能力が障害されてしまうからです。

精神科リハビリテーションとは

精神科リハビリテーションの定義は、「長期にわたる精神なハンデをもつ人が、専門家による"最小限の(適切な)介入"で、生活能力の回復を助け、自分の選んだ環境で、落ち着き、自分が満足する生活が出来るようにすること」となっています。つまり、自分の満足する生活や自分の目標に向けた活動のために、自分の力を最大限に発揮できるようにしましょう、ということです。

精神科リハビリテーションの技法

それでは、精神科リハビリテーションにおいては、どのような具体的な技法が用いられるのでしょうか。代表的な技法を列挙してみます。

  1. 精神科デイケア
  2. 作業療法
  3. SST
  4. 認知行動療法
  5. グループワーク
  6. 職業的アプローチ(リハビリテーション)

セミナーでは、精神科リハビリテーションの代表的な技法として、主に、精神科デイケアについて、お話しをさせて頂きました。

加えて、デイケアにおける就労支援の実際を、事例を用いてご紹介させて頂きました。

精神科デイケアとはそもそも何でしょうか。 これをお読みの皆さんは、「デイケア」と聞くと、どのようなものを思い浮かべられるでしょうか?まったくどのようなものか想像ができない、という方から、高齢者を対象とした「デイケア」をイメージされる方 まで、様々なのでは、と思います。

精神科デイケアとは、精神障害をお持ちの方々に対して提供される治療のひとつで、 1人1日6時間を標準として、さまざまな“プログラム”(主にグループ活動)を通し、その生活能力の回復や向上を目指すものです。そして、最終的には、デイケアを中継点として、(広い意味での)自立的な生活と社会参加へとつなげていくことを目的とします。ともすると孤立しがちな患者さんに、人と触れ合う場を提供し、他者と一緒に活動する中で、生活技能や体力、人と一緒にやっていく力、自信、などを回復してゆく場、自分なりの生活を築いてゆく場、と言い換えても良いかも知れませんね。

デイケア参加のメリット

では、デイケアに参加することで、どのようなメリットが得られるのでしょうか。  セミナーでは、9つのメリットが紹介されましたので列挙して、解説を加えてみたいと思います。

(1) 外に出るきっかけとなること

病気のために家に閉じこもりがちとな っている方にとっては、日中、行くところがあるということは、生活のメリハリや、社会との接点を持つという点で意味があります。

(2)色々な人と出会えること

デイケアを利用することによって、医療スタッフだけでなく、他メンバーなど、様々な人と自然な形での交流がもてます。また、

(3)様々なプログラムに参加出来ること

何らかの活動を行うことにより、達成感 や喜びを感じたり、他者との共同作業を通じて、交流を促進することができます。

(4)自由に過ごせる場があること

デイケアが「安全基地」の機能を果たし、 たとえストレス状況に陥っても、デイケアを利用することで、一時的に退避することができます。

(5)スタッフに相談できること

悩みや心配ごとを、様々な専門的背景を もったスタッフにじっくりと相談できます。

(6)医療機関スタッフの目が届いているということ

スタッフは、メンバーと生活時間の一部 を共にすることになりますが、再発・発症が起こった際に、迅速に主治医と連携が取れます。

(7)食事を提供すること

きまった時間に食事をとることができ ます。家族の団欒のような、暖かい雰囲気の中で食事する、という機会をもてます。

(8)目標を持てるということ

社会の縮図ともいえるデイケアの中で、 目標をもって活動することができます。そして、身近な目標の達成を数々経験することが、社会への一歩を踏み出しやすくします。

(9) 他の機関や同じ機関の中のサポートとの連携

デイケア以外のサポートを組み合わせ、情報交換など、連携をとることで、より包括的にメンバーをサポートすることができます。

こうした点を見てくると、デイケアの最大の意義とは、利用者が外の社会へ一歩を踏み出す前に、“サポートを受けられる”という保障のもとに、人間関係を練習できることである、といえそうです。

就労支援施設

一般就労の他に、精神障がい者の就労を実現する場所としては、次のような施設があります。

また、就労に関連する社会資源として、働く場所ではなく、就労に関する相談や評価、訓練を実施する施設の活用も有効です。

デイケアでは、就労を希望されるメンバーさんに対し、こうした社会資源の活用を視野に入れながら、援助を行います。

就労支援の実際

セミナーでは、就労支援の実例をご紹介させて頂きました(紙面では割愛させて頂きます)。ここでは、架空のモデルケースをご紹介させて頂きます(たとえば、こんな風に就労への移行を試みる、というイメージです)。

《デイケア太郎さん 30代 男性》

主治医の勧めでデイケアへ通所開始。通所を開始した当初は、周囲へなかなか馴染むことができず、落ち着かない様子が続きました。体力的にも、まだまだ回復途上といった様子で、疲れがち。週2日程度の通所がやっとといった状態がしばらく続きました。

やがて、次第に体力が回復。週5~6日の参加が可能となり、デイケア内での人間関係もできてくると、太郎さんの中に「元のように仕事ができるはず・・・」という思いが強くなり、職探しを始められました。ご本人の努力で何度か正社員として採用されることができましたが・・・いずれも長くは続きませんでした。

デイケアのスタッフは、太郎さんとの面接の中で、職場で“うまくいかない点”が何なのか、太郎さんの“ウィークポイント”は何なのか、を話し合っていきました。太郎さんは、なかなか“病気になる前の自分”のイメージから離れられませんでしたが、繰り返される、“採用→短期で退職”のパターンに、少しずつ、現状を認識されたようです。

そこで、太郎さんとデイケアスタッフは就労相談センターを利用してみることにしました。就労相談センターで各種の作業評価をしてもらい、太郎さんにより適した職場を開拓してもらうことにしました。就労相談センターが職場の開拓をしている間、太郎さんは、デイケアの通所を続け、体力の維持と病状の安定、コミュニケーションスキルの訓練を行いました。今後、就労相談センターの担当者と、職場の面接を受けに行くことになっています・・・。

もちろん、こうした例はほんの一例で、精神科領域の疾患の症状が人それぞれ個人差が大きいのと同じように、リハビリテーションの過程も非常に個人差が大きいものです。「その人」の「その時」に応じた各種資源の利用が大切です。

どのような場面でも、ゆっくり焦らず、ご本人がご本人らしく、生活していける道を探っていくことを忘れてはいけないのではないでしょうか。