こころのはなし

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アルツハイマー型認知症

F00 アルツハイマー型認知症 Dementia in Alzheimer’s disease
アルツハイマー病による認知症(DSM-5)または
アルツハイマー病による軽度認知障害(DSM-5)

疾患の具体例

67歳、男性。会社役員として働いていましたが、1年ほど前から人との約束を忘れたり、同じことを何度も繰り返して言ったりするようになりました。妻からその事実を指摘されても、なかなか認められずにいましたが、仕事の重大なアポイントを忘れ、処分を受けてしまいました。他にも、新しく会った人の名前を覚えられない、会議に出ても話が頭に入ってこないなど、少しずつさまざまな困難が現れ、仕事に支障を来すようになりました。思い切って病院を受診すると、「アルツハイマー型認知症」と診断されました。

特 徴

認知症は脳疾患による症候群で、記憶、思考、見当識(時間、場所などの認識)、理解、計算、学習能力、言語、判断など、多岐にわたる領域が障害されます。 認知症にはいくつかの種類がありますが、もっとも多いのがアルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)です。主な症状は、物事を記憶できなくなったり、身の回りのことができなくなったりすることです。まれに、視空間型(視力が低下していないのに物をみつけられない)や、言葉が出なくなる失語型の人もいます。 自分でも気がつかないうちに病気が発症し、緩やかかつ着実に進行するのも特徴です。本人よりも先に周囲の人が病気に気づき、人間関係に支障を来すことがあります。 なお、高齢者はアルツハイマー型認知症の他に、いくつもの他の病気を合併していることが多くあります。合併症などの治療や管理が必要なため、高齢者における診断はより複雑になります。

経 過

通常70~80代でアルツハイマー型認知症の徴候が現れます。発病年齢が早くても遅くても、症状と病態に違いはあまりありません。 アルツハイマー型認知症は、潜行性に発症し、時に短い安定期がありつつも、やがて重篤な認知症へと発展します。晩期は言葉を発することができず、寝たきりの状態となります。診断後の平均生存期間はおよそ10年ですが、患者さんの大多数が高齢者であることを反映した長さだと考えられます。病状が進行する期間は2~3年と短いこともありますが、時にかなり長くなります。人によっては、病気と共に20年間にわたって生存します。全経過を生きた人の中で、もっともよくある死因は誤嚥です。

有病率

認知症全体の有病率は年齢と共に急増します。アメリカの国勢調査によると、アルツハイマー病と診断された人のおよそ7%が65~74歳で、53%が75~84歳、40%が85歳以上であると推定されています。認知症の中でアルツハイマー型認知症の割合は、状況と診断基準によって、およそ60~90%以上まで変動します。

原 因

環境要因:外傷性脳損傷によりアルツハイマー型認知症になる危険が増します。
遺伝要因と生理学的要因:年齢はアルツハイマー型認知症のもっとも強い危険因子です。血管性の病気のリスクがアルツハイマー型認知症の危険を増大させます。また、ダウン症(21トリソミー)の人は、中年期になるとアルツハイマー病を発症する割合が高いとされています。

治 療

ドネペジル(アリセプト)、リバスチグミン(Exelon)、ガランタミン(Remiryl)、タクリン(Cognecx)は、軽度から中等度のアルツハイマー型認知症の治療に用いられる薬です。記憶と目的指向的思考を改善させると言われています。ドネペジルは耐用性が良好で、広く使用されている薬です。タクリンには肝毒性の危険性があるため、あまり使用されていません。リバスチグミンとガランタミンはドネペジルよりも臨床資料が少ないものの、胃腸への有害作用や神経精神医学的有害作用が起こりにくいようです。また、これらの薬は、どれもアルツハイマー型認知症の進行を阻止することはできません。

診断基準:ICD-10

確定診断のためには、以下の特徴が必須である。

  1. 上記のような認知症の存在。
  2. 潜行性に発症し、緩徐に悪化する認知症。通常は発症の時期を正確に決めることは難しいが、欠陥の存在が他人に気づかれることもある。経過中に明らかに親交の停滞をみることがある。
  3. 認知症をもたらしうる他の全身性疾患あるいは脳疾患(たとえば甲状腺機能低下症、高カルシウム血症、ビタミンB12欠乏症、ニコチン酸欠乏症、神経梅毒、正常圧水頭症、硬膜下血腫)による精神状態を示すような臨床所見あるいは特殊検査所見がないこと。
  4. 突発性の卒中様発症がなく、不全片麻痺、知覚脱失、視野欠損、協調運動失調などの脳局所の損傷を示す神経学的徴候が病初期には認められないこと(しかし、これらの症状は後に重なることがある)。

一部の症例では、アルツハイマー病と血管性認知症の特徴が、共存することもある。このような場合は、両者がまちがいなく存在するならば、2つの診断名(およびコード)を付けるべきである。血管性認知症がアルツハイマー病に先行する場合は、後者を臨床的に診断することは不可能であろう。

診断基準:DSM-5

  1. 認知症または軽度認知障害の基準を満たす。
  2. 1つまたはそれ以上の認知領域で、障害は潜行性に発症し緩徐に進行する(認知症では、少なくとも2つの領域が障害されなければならない)。
  3. 以下の確実なまたは疑いのあるアルツハイマー病の基準を満たす。

認知症について

確実なアルツハイマー病は、以下のどちらかを満たした時に診断されるべきである。そうでなければ疑いのあるアルツハイマー病と診断されるべきである。

  1. 家族歴または遺伝子検査からアルツハイマー病の原因となる遺伝子変異の証拠がある。
  2. 以下の3つすべてが存在している。
  1. 記憶、学習、および少なくとも1つの他の認知領域の低下の証拠が明らかである(詳細な病歴または連続的な神経心理学的検査に基づいた)。
  2. 着実に進行性で緩徐な認知機能低下があって、安定状態が続くことはない。
  3. 混合性の病因の証拠がない(すなわち、他の神経変異または脳血管疾患がない、または認知の低下をもたらす可能性のある他の神経疾患、精神疾患、または全身性疾患がない)。

軽度認知障害について

確実なアルツハイマー病は、遺伝子検査または家族歴のいずれかで、アルツハイマー病の病因となる遺伝子変異の証拠があれば診断される。 疑いのあるアルツハイマー病は、遺伝子検査または家族歴のいずれにもアルツハイマー病の原因となる遺伝子変異の証拠がなく、以下の3つのすべてが存在している場合に診断される。

  1. 記憶および学習が低下している明らかな証拠がある。
  2. 着実に進行性で緩徐な認知機能低下があって、安定状態が続くことはない。
  3. 混合性の病因の証拠がない(すなわち、他の神経変異または脳血管疾患がない、または認知の低下をもたらす可能性のある他の神経疾患、全身性疾患、または病態がない)
  1. 障害は脳血管疾患、他の神経変性疾患、物質の影響、その他の精神疾患、神経疾患、または全身性疾患ではうまく説明されない。

※参考文献
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)