こころのはなし

こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
「こころの病」についての知識をはじめ、
バラエティに富んだ情報を提供するなど、
患者様はもちろんご家族など皆様との交流を目指すコーナーです。

     

ハンチントン病による認知症

ハンチントン病による認知症(Major Neurocognitive Disorder Due to Huntington)
ハンチントン病による軽度認知障害(Mild Neurocognitive Disorder Due to Huntington)

疾患の具体例

40歳男性。大きな病気をしたことのない健康体でしたが、このところ字がうまく書けなくなったり、食事の際にご飯をポロポロこぼしてしまったりするなど、日常の動作が不器用になってきました。
また、仕事や旅行などの計画を立てるのが面倒になり、気分が沈みこんだり、突然怒り出したり、不安になったりすることも増えてきました。 家族に「ハンチントン病」の患者がいたため、神経内科を受診したところ、ハンチントン病と診断されました。

特 徴

世界的な有病率は10万人あたり2.7人と推定されています。ただし、北米、欧州、オーストラリアでは10万人あたり5.7人であるのに対し、アジアではずっと低く、10万人あたり0.4人です。
小児から高齢者までさまざまな年齢で発症しますが、30~40歳代に発症することが多く、男女差はありません。

原 因

ハンチントン病は、「ハンチントン遺伝子(HTT遺伝子)」と呼ばれる遺伝子に異常があることで発症します。HTT遺伝子の中にある「CAG」(シトシン、アデニン、グアニン)という塩基配列の繰り返しが36回以上になっているのです。この繰り返しが多いほど若年で発症し、症状も重篤です。
また、ハンチントン病は優性遺伝の病気であるため、両親のどちらかが同じ病気であることがほとんどです。仮に、片方の親にハンチントン病だった場合、50%の確率で子どもに遺伝します。また、父親からの遺伝の場合は、子どもの発症年齢が早くなり、症状が重くなる傾向があります。

症状、経過

人によって表れ方がかなり違うため、親子であっても症状や経過が異なることが多々あります。一般的には、発病から10年以上を経て、社会生活を送るのが困難になる程度まで症状が進行します。
初期には、細かい動作がしにくくなったり、顔の表情や手先が勝手に動いてしまったり、怒りっぽくなったり、うつ状態になったりすることが多いようです。そのため他人からは、不器用になった、そそっかしくなった、神経質になった、などと見られることがあります。 進行すると舞踏運動や震えなどの不随意運動(自分の意思とは関係なく起こる運動)が表れ、しだいに悪化していきます。舞踏運動とは、手先や首が不規則に動く、顔をしかめる、舌打ちするといった動きをさします。
随意運動(自分の意思で行う運動)にも障害が表れます。初めは細かい動作だけがしにくかったのが、動作全般がしにくくなり、歩けない、姿勢が保てない、食べ物がうまく飲み込めない、話しづらいといった症状へと進行していきます。
精神症状では、普通の認知症とは異なり、学習・記憶能力よりも、計画・実行能力に障害が目立ちます。そのため、情報処理速度や組織化、計画性などが低下します。また、怒りっぽくなる、ふさぎ込むなどの性格変化も見られます。
20歳未満で発病する若年性ハンチントン病の場合は、成人になってから発症する場合に特徴的な舞踏運動よりも、運動緩慢、ジストニア(身体がねじれたり、硬直したり痙攣したりする)、固縮(筋肉が持続的に強く強張る)の方が多く見られるようです。

治 療

不随意運動やうつ症状などの症状を緩和する薬はありますが、今のところ根本的な治療法はありません。

予 後

進行は緩やかで、診断を受けてから亡くなるまでの生存期間中央値は約15年です。末期には嚥下機能(飲み込み)が障害されるため、誤嚥性肺炎を起こして亡くなるケースが多く見られます。

診断基準:ICD-10

散発性の場合も確かに存在しますが、舞踏病様の運動障害、認知症、そしてハンチントン病の家族歴が同時に見出されれば、この診断が強く疑われます。 典型的には、顔、手、肩、あるいは歩行時の不随意舞踏病様運動が早期の症状です。通常、不随意運動は認知症に先行し、認知症が高度に進行するまで不随意運動を認めないことはまれです。発症が通常とは異なり若年、あるいは老年の場合には、他の運動症状(たとえば若年では筋固縮、老年では企図振戦)が目立つことがあります。 この認知症は。病初期においては前頭葉機能の障害が目立ち、後期にいたるまで記憶は比較的保たれるという特徴をもっています。 (ハンチントン舞踏病型認知症を含む) 下記を考慮して鑑別します。

  1. 舞踏病様運動の他の症例。
  2. アルツハイマー病、ピック病あるいはクロイツフェルト‐ヤコブ病(F00.-, F02.0,F02.1)。

診断基準:DSM-5

  1. 認知症または軽度認知障害の診断基準を満たす。
  2. その障害は潜行性に発症し緩徐に進行する。
  3. ハンチントン病の診断が臨床的に確定されているか、または家族歴または遺伝学的検査に基づいたハンチントン病の危険がある。
  4. その神経認知障害は他の医学的疾患によるものではなく、他の精神疾患ではうまく説明されない。。

※参考文献
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)
『ハンチントン病と生きる』(ハンチントン病研究グループ)