こころのはなし

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他の幻覚薬使用障害

他の幻覚薬使用障害 Other Hallucinogen Use Disorder

疾患の具体例

20歳、女性。知人からもらったMDMAを飲んだところ高揚感や陶酔感が得られました。しかし、後から気分が落ちこみ、眠れなくなりました。テレビを見ても、友人から話しかけても言葉が頭に入りません。こうした状態が数ヵ月続き、つらくてやめたほうがいいと思いながら、MDMAを求める気持ちが抑えられません。

特 徴

他の幻覚薬使用障害は、フェンシクリジン以外の幻覚薬の使用を繰り返し、自分の意思ではやめられなくなる障害です。その物質を渇望したり、手に入れるために非常に多くの時間や労力を費やしたりする人もいます。

幻覚薬にはさまざまな種類があり、フェニルアルキラミン類(例:メスカリン、DOM、エクスタシー[MDMA])、プシロシビン(プシロシン)、メチルトリプタミン(DMT)を含むインドールアミン類、LSDおよびエルゴリン類(例:アサガオの種)などが挙げられます。ほかに、特定の地域や民族で伝統的に使用されていた植物由来の化合物も、幻覚薬に含まれるものがあります。例えば、サルビア・ディビノルム(メキシコ原産のサルビア属の植物)、チョウセンアサガオ(ナス科の植物)などです。

幻覚薬には、興奮作用や幻覚作用などがあります。作用の持続時間はさまざまで、一部の物質(LSD、エクスタシー)は回復までに数時間~数日間と長く、他の物質(DMT、サルビア)はもっと短時間の作用です。

症状の現れ方も物質によって異なります。例えばエクスタシーは、幻覚誘発性と精神刺激性の両方の作用を持っています。乱用すると、混乱や憂うつ、睡眠障害などが生じるほか、脱水症や高血圧、心臓・肝臓の機能不全などが起こることがあります。LSDは、摂取して1時間くらいまでに漠然とした不安感や悪心が生じ、その後に瀕脈、顔面の紅潮、体温・血圧・心拍数の上昇、食欲減退、気分の高揚、不眠などが現れます。メスカリンは、使用時の心の状態や環境によって作用が変わり、ぼんやりした幻覚感覚が生じることもあれば、突然怒り出したり、不安、混乱、不眠、食欲不振などが現れることもあります。

なお、これまで二度にわたって、幻覚薬の使用頻度が大幅に増加する期間がありました。第1期は1965~1969年で、この間に幻覚薬使用が10倍に増加しました。主にLSDの使用が増えています。第2期は1992~2000年で、主にエクスタシーの使用増加によるものでした。その後、2013年までの間に、LDSとエクスタシーの使用開始は明らかに減少しています。これは、幻覚薬全体の使用が160万人から110万人に減少していることと一致します。

有病率

物質使用障害にはアルコールやカフェインなども含めて様々な種類がありますが、他の幻覚薬症障害は最もまれなものの一つです。アメリカにおける12カ月有病率は12~17歳で0.5%、18歳以上では0.1%と推定されます。 なお、青年は幻覚薬使用のリスクが高い傾向があり、12~17歳の若者のうち2.7%が12カ月以内に幻覚薬を使用していると推計されています。そのうち44%はエクスタシーです。

経 過

この障害の経過についてはほとんどわかっていませんが、一般的に罹患率は低く、持続性も低く、回復率は高いと考えられています。

原 因

成人では一貫しませんが、青年でエクスタシーを使用した人は、他の幻覚薬使用障害になるリスクが高いことがわかっています。また、アルコールとタバコを早くから使用している人は、大麻や幻覚薬を使用し始めるリスクがあると考えられています。仲間が薬物を使用していると、高揚を求める傾向が高く、エクスタシーの使用率が高いとされています。
また、発症年齢によって物質の使用様式が異なることが認められています。例えば、若いうちからエクスタシーを使用している人は、よりあとから使用した人に比べ、複数の薬物を使用する可能性があります。

診断基準:DSM-5

  1. 幻覚薬(フェンシクリジン以外)の使用様式で、臨床的に意味のある障害や苦痛が生じ、以下のうち少なくとも2つが、12カ月以内に起こることにより示される。
  1. 幻覚薬を意図していたよりもしばしば大量に、または長期間にわたって使用する。
  2. 幻覚薬の使用を減量または制限することに対する、持続的な欲求または努力の不成功がある。
  3. 幻覚薬を得るために必要な活動、その使用、またはその作用から回復するのに多くの時間が費やされる。
  4. 渇望、つまり幻覚薬使用への強い欲求、または衝動。
  5. 幻覚薬の反復的な使用の結果、職場、学校、または家庭における重要な役割の責任を果たすことができなくなる(例:幻覚薬使用に関連して仕事をたびたび休む、または仕事の能率が不良;幻覚薬に関連した学校の欠席、停学、または退学;育児または家事のネグレクト)。
  6. 幻覚薬の使用により、持続的、または反復的に社会的、対人的問題が起こり、悪化しているにもかかわらず、その使用を続ける(例:中毒の結果についての配偶者との口論、身体的喧嘩)。
  7. 幻覚薬の使用のために、重要な社会的、職業的、または娯楽的活動を放棄、または縮小している。。
  8. 身体的に危険な状況においても幻覚薬の使用を反復する(例:幻覚薬による機能不全中の自動車運転や機械の操作)。
  9. 身体的または精神的問題が、持続的または反復的に起こり、悪化しているらしいと知っているにもかかわらず、幻覚薬の使用を続ける。
  10. 耐性、以下のいずれかによって定義されるもの;

(a)中毒または期待する効果を得るために、著しく増大した量の幻覚薬が必要

(b)同じ量の幻覚薬の持続使用で効果が著しく減弱

注:離脱症状や徴候については幻覚薬では確立されていないため、この基準は適用されない。

該当すれば特定せよ
寛解早期:他の幻覚薬使用障害の基準を過去に完全に満たした後に、少なくとも3カ月以上12カ月未満の間、他の幻覚薬使用障害の基準のいずれも満たしたことがない(例外として、基準A4の「渇望、つまり他の幻覚薬使用への強い欲求、または衝動」は満たしてもよい)。

寛解持続:他の幻覚薬使用障害の基準を過去に完全に満たした後に、12カ月以上の間、他の幻覚薬使用障害の基準のいずれも満たしたことがない(例外として、基準A4の「渇望、つまり他の幻覚薬使用への強い欲求、または衝動」は満たしてもよい)。

※参考文献
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト 日本語版第3版』(メディカルサイエンスインターナショナル)
財団法人麻薬・覚せい剤乱用防止センター ホームページ

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