こころのはなし

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オピオイド離脱

オピオイド離脱 Opioid Withdrawal

疾患の具体例

24歳、男性。ヘロインの乱用をやめるために治療を受けています。医療機関に通い、自助グループに参加していますが、離脱症状に苦しんでいます。医師が診察した時、彼の瞳孔は散大しており、大汗をかいて鳥肌が立っていました。常にイライラした様子で、腕と脚がピクピクと動いていました。腹痛や下痢の症状もあることを訴えていました。

特 徴

オピオイド離脱の基本的特徴は、大量かつ長期のオピオイドの使用をやめた(または減らした)あとに現れる精神的および身体的な症状です。オピオイドの使用後にオピオイド拮抗薬を投与した場合にも、離脱症状が生じることもあります。

症状は不安、イライラ、落ち着きのなさ、腰や脚の痛みなどが挙げられます。さらに、不快気分、吐き気(または嘔吐)、黙っていても涙や鼻水が流れる、瞳孔散大、起毛または発汗、下痢、あくび、発熱、不眠などのうち3つ(またはそれ以上)に該当することが診断用件になっています。人によっては重篤な筋肉の痙攣、多量の下痢、腹痛、高血圧、頻脈、体温調節障害(低体温あるいは高熱)が生じることもあります。男性については、オピオイド離脱中に不随意な(抑制できない)射精を経験するかもしれません。 オピオイド離脱に関連した症状としては、易刺激性、抑うつ、振戦、筋力低下、悪心などが挙げられます。

一般原則として、作用時間の短い物質は短期間で強烈な離脱症状を引き起こし、作用時間の長い物質は持続的で軽度の離脱症状が起こります。長時間作用型のオピオイドの依存者がオピオイド拮抗薬を投与され、突然、離脱症状が引き起こされたケースでは、症状が重篤になる場合があります。 オピオイドへの強烈な渇望を含めた離脱症状は、オピオイド依存者が急激に使用中止した場合のみ生じます。医療上必要な疼痛のためのオピオイド使用では、そうした離脱症状はめったに起こりません。

有病率

さまざまな臨床場面からの報告によると、過去12カ月に1回以上ヘロインを使用した人のうち60%にオピオイド離脱が認められています。

経 過

オピオイド離脱のスピードや重症度は、使用していたオピオイドの半減期によって異なります。ヘロインなど短時間作用薬を使用していた人は、ほとんどの場合、最後の使用から6~12時間以内に離脱症状が起こります。通常、1~3日にピークとなり、5~7日間で徐々に軽快していきます。メサドンまたはLAAM、ブプレノルフィンのような長時間作用薬の場合は、症状の出現まで2~4日かかるかもしれません。 オピオイドの使用後にオピオイド拮抗薬を投与した場合は、急速に離脱症状が生じます。オピオイド拮抗薬の投与からほどなくして離脱症状が始まり、約1時間にはピークに達します。 なお、不眠や徐脈、体温調節障害、オピオイド渇望などの残遺症状は、離脱後数カ月間にわたって続くことがあります。

治 療

わずかにオピオイドを投与することで、オピオイド離脱の症状を解消することができます。そのため、意図的にオピオイドを投与し、徐々にオピオイド離脱を治す治療方法があります。「メサドン維持療法」は、オピオイドの一種でヘロインの代わりになる「メサドン」を経口投与します。メサドンによる離脱症状も起こりますが、ヘロインよりは容易に解毒されます。メサドンは静脈注射ではなく口から投与できるので、汚染された注射針による感染症のリスクを減少させます。また、メサドンは最小限の多幸感が生じますが、長期摂取による眠気やうつ病はめったに生じないというメリットもあります。

診断基準:DSM-5

  1. 以下のいずれかが存在:
  1. 多量かつ長期間にわたっていた(すなわち、数週間またはそれ以上)オピオイド使用の中止(または減量)
  2. オピオイド使用の期間後のオピオイド拮抗薬の投与
  1. 以下のうち3つ(またはそれ以上)が、基準Aの後、数分から数日の間に発現する。
  1. 不快気分
  2. 嘔気または嘔吐
  3. 筋肉痛
  4. 流涙または鼻漏
  5. 瞳孔散大、起毛、または発汗
  6. 下痢
  7. あくび
  8. 発熱
  9. 不眠
  1. 基準Bの徴候または症状は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
  2. その徴候または症状は、他のの医学的疾患によるものではなく、他の物質中毒または離脱を含む他の精神疾患ではうまく説明されない。

※参考文献
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト 日本語版第3版』(メディカルサイエンスインターナショナル)
『DSM-5 ケースファイル』(医学書院)

皆様へのお願い
非合法薬物などの治療には専門的対応が必要となります。当院ではこれに対応することはできませんので、専門の医療機関(神奈川県立精神医療センター/大石クリニック)をご受診いただけますようお願いいたします。あらかじめご了承ください。