こころのはなし

こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
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他の(または不明の)物質の中毒

他の(または不明の)物質の中毒 Other(or Unknown) Substance Intoxication

疾患の具体例

30代、女性。長年、勤務している歯科医院で笑気ガスに曝露される機会があります。安全性の高いものだと思っていましたが、診察室で笑気ガスを使用するとしびれ、体温と心拍数の増加、時に多幸感が生じることに気づきました。

特 徴

「他の(または不明の)物質の中毒」は、以下の物質とは関連しない物質の中毒です。 アルコール、カフェイン、大麻、幻覚薬(フェンシクリジンなど)、吸入剤、オピオイド、鎮静薬、睡眠薬、抗不安薬、精神刺激薬(アンフェタミン、コカインなど)、タバコ。 この障害の原因となる物質や、その中毒症状は様々です。例えば、以下の物質が挙げられます。

亜硝酸塩吸入薬
軽度の多幸感、時間感覚の変化、脳の充実感、人によっては性的感情の高まりなどが現れる。有害作用としては、悪心、嘔吐、頭痛、低血圧、傾眠、気道刺激などが挙げられる。勃起不全や肺動脈性肺高血圧症の治療薬「シルデナフィル」(バイアグラ)と亜硝酸塩吸入薬の併用は致命的な結果となり得る。

亜硝酸塩吸入薬
一般的に「笑気ガス」と呼ばれ、歯科の麻酔などに使用されている。乱用すると、意識がもうろうとなったり、浮遊感、快楽的体験(時に性的快楽)が生じる。

ナツメグ
肉料理などによく使われるハーブ。大量に摂取した場合、離人感や現実感喪失、四肢の重苦しい感覚が誘発されることがある。

ビンロウの実
アジア諸国で使用されている植物。口に入れてかんでいるうちに多幸感や、浮遊感が生じる。

カヴァ(キャバ)
南太平洋に自生する植物。カヴァの根は、鎮静作用や協調運動障害を引き起こす可能性がある。

有病率

この障害の有病率ははっきり分かっていません。

経 過

この障害の経過は、使用した物質によって様々ですが、一般的には使用から数分~数時間で中毒症状が出現し、ピークに達します。物質を吸入、または静脈注射した場合は症状の発現が速く、経口摂取の場合は遅い傾向があります。中毒症状は、通常、数時間~数日で軽快しますが、物質によって異なります。

診断基準:DSM-5

  1. 最近、ほかに記載されていない(または不明の)物質を摂取した(または曝露された)ことによる、可逆的な物質特異的な症候群の発現
  2. 物質の中枢神経系に対する作用によって、臨床的に意味のある問題となる行動や心理学的変化(例:協調運動障害、精神運動興奮または抑制、多幸症、不安、好争性、気分の不安定性、認知機能障害、判断の障害、社会的引きこもり)が、物質の使用中または使用後すぐに発現する。
  3. その徴候や症状は、他の医学的疾患によるものではなく、他の物質による中毒を含む他の精神疾患ではうまく説明されない。

※参考文献
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト 日本語版第3版』(メディカルサイエンスインターナショナル)