こころのはなし

こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
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カフェイン離脱

カフェイン離脱 Caffeine withdrawal

疾患の具体例

44歳、男性。研究者として働いており、平日は4~5杯のコーヒーを飲んでいました。コーヒーを飲むと眠気が取れ、頭が冴えるような気がしたからです。しかし、夜間も目が冴えてなかなか眠れないことから、自宅で過ごす週末だけはコーヒーを控えるようにしました。すると激しい頭痛と倦怠感、吐き気が生じて、座っているのも苦痛なくらいでした。コーヒーを1杯飲むと症状は消えるのですが、飲まずにいると必ず頭痛に襲われます。

特 徴

カフェイン離脱の基本的特徴は、長期にわたって毎日カフェインを使用している人が突然、カフェインの使用をやめたり、使用量を減らしたりした時に現れる不快な症状です。意識的にカフェインを減らした時だけでなく、医療機関で検査を受けるために飲食を禁止された時や、いつもと違うスケジュールで過ごすためにカフェインをとり損ねた時に起きることもあります。

症状は人によって異なりますが、頭痛や著しい疲労感、眠気、不快気分、抑うつ気分、怒りっぽさ、集中困難などが挙げられます。風邪をひいた時のように、吐き気や節々の痛みを感じる人もいます。このうち頭痛は特によくある症状で、頭が脈打つようにズキズキ痛みます。身体を動かす振動で痛みが増し、次第に強くなることが一般的です。「これまで経験した頭痛と比べ、最もひどい頭痛」と表現する人もいます。

カフェインは行動に作用する物質でありながら、その危険性があまり周知されておらず、ほぼすべての年代で使用されています。最近では、若者の間でカフェインを多く含んだドリンクを使用する例が増えており、カフェイン離脱のリスクを増大させています。また、カフェインを毎日使用していても、カフェインの依存性について無自覚な人もいます。そのため、カフェイン離脱の症状を風邪や偏頭痛のせいだと誤解することもあります。

なお、カフェイン離脱の症状は軽度から重度までさまざまで、時に日常生活を大きく障害することがあります。例えば、ベッドから起き上がることができなくなり、仕事を休んだり、家事育児ができなくなったりすることが考えられます。

有病率

カフェイン離脱の罹患率や有病率は不明ですが、アメリカではカフェインを中断した人のおよそ50%で頭痛が起きると報告されています。通常、カフェインの使用量が多くなるほど離脱症状が起きやすくなりますが、個人差が大きいと考えられています。例えば、1日100mgと少ないカフェイン量でも、急に中断すると離脱が生じるかもしれません。

経 過

離脱症状は、カフェインを最後に使用してから12~24時間後に始まり、1~2日後にピークを迎えます。通常2~9日間続きますが、頭痛は21日間まで続く可能性があります。

原 因

気質要因:
重度のカフェイン使用は、摂食障害などの精神疾患に罹患した人、喫煙者、受刑者、薬物やアルコール乱用者で見られます。この人たちは、急激なカフェイン中断で離脱症状を起こすリスクが高いと考えられます。

環境要因:
入院や妊娠、旅行など、いつものようにカフェインを使用できない状況は、離脱症状を引き起こすきっかけになるかもしれません。

遺伝要因と生理学的要因:
カフェイン離脱を起こしやすい遺伝要因があるようですが、特別な遺伝子は特定されていません。

治 療

カフェインを止める時は、突然ではなく、7~14日かけて徐々に減量する必要があります。また、離脱症状は再びカフェインを使用すると30~60分以内で速やかに軽減します。それまでの使用量より少ない量のカフェイン使用は、離脱症状の予防や減弱に役立つかもしれません。例えば、通常1日300mgのカフェインを使用していた人が、25mgのカフェインを使用するなどのケースが考えられます。

診断基準:DSM-5

  1. 長期にわたる毎日のカフェイン使用
  2. カフェイン使用の突然の中断または使用していたカフェインの減量後24時間以内に、以下の徴候または症状のうち3つ(またはそれ以上)が発現する。
  1. 頭痛
  2. 著しい疲労感または眠気
  3. 不快気分、抑うつ気分、または易怒性
  4. 集中困難
  5. 感冒様症状(嘔気、嘔吐、または筋肉の痛みか硬直)
  1. 基準Bの症状は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
  2. その徴候または症状は、他の医学的疾患(例:偏頭痛、ウイルス性疾患)の生理学的作用に関連するものではなく、他の物質による中毒や離脱を含む他の精神疾患では上手く説明されない。

※参考文献
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト 日本語版第3版』(メディカルサイエンスインターナショナル)