こころのはなし

こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
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適応障害

F43.2 適応障害 Adjustment Disorder

疾患の具体例

28歳、男性。入社以来、会社の企画部門で働いてきましたが、1ヵ月前の人事異動で営業に配属されました。新しい仕事にはなかなか慣れず、営業成績は同僚と比べて低迷しています。仕事のイライラが募り、婚約していた恋人と激しくけんかし、結婚の時期を延期することになりました。会社のことを考えると憂うつで、恋人との先行きも不安です。そのうち、朝起きることも苦痛になりました。友人の勧めでメンタルクリニックを受診し、状況を打ち明けると「適応障害」と診断されました。

特 徴

適応障害の本質的な特徴は、はっきりと確認できるストレス因に反応して、抑うつ気分、不安、心配などの症状が現れることです。何かを計画したり続けたりできなくなる人もいます。それまで日課としていたことが困難になることもあります。中には暴力や突飛な行動をとってしまいそうだと感じる人もいますが、そうなることは滅多にありません。子どもは夜尿症、幼稚な話し方、指しゃぶりなどの退行現象がしばしば見られます。
ストレス因は人によって様々で、大切な人との死別、恋人との別れなど単一の出来事のこともあれば、「仕事上の著しい困難と結婚問題」のように複数のこともあります。仕事上の季節的な苦難、性的関係への不満など、ストレス因が反復する場合も少なくありません。慢性疼痛疾患や治安の悪い地域での生活など、持続するストレス因から適応障害になる人もいます。
また、大規模火災や自然災害など、自分以外の人達にも影響する大きなストレス因が原因となることもあります。入学や実家を離れる、実家に戻る、結婚、親になること、仕事の引退など、人生におけるステージの変化もストレス因になりえます。 なお、適応障害の患者さんは、自殺企図と自殺遂行の危険の高くなると考えられています。

有病率

研究方法などによって異なりますが、外来で精神科治療を受けている人のうち、適応障害を主診断とする人はおよそ5~20%です。病院での精神科コンサルテーション(他の科の医師が患者の精神症状について精神科医に相談する)では、適応障害と診断される場合が最も多く、しばしば50%に達します。

経 過

適応障害の症状は、ストレス因の始まりから3ヵ月以内に出現し、6ヵ月以上続くことはありません。ストレス因が急な出来事(例:突然、仕事を解雇された)である場合、通常、障害の発症は数日のうちに起こり、数ヵ月以上は続きません。ただし、ストレス因が持続する場合は、適応障害もまた引き続きます。

原 因

環境要因:恵まれない生活環境にいる人は、ストレス因に遭遇する頻度が高いため、適応障害になる危険性も増えるかもしれません。

治 療

適応障害の治療には、精神療法が有効だとされています。治療が成功した患者さんは、適応障害になる以前より精神的に強くなることがあります。精神療法を補う手段として、薬物療法が用いられることが増えてきています。しかし、短期間に止めるべきだと考えられています。

診断基準:ICD-10

診断は、以下の諸項目間の関連の注意深い評価に基づく。

  1. 症状と形式、内容および重症度
  2. 病歴と人格
  3. ストレス性の出来事、状況、あるいは生活上の危機

第三の項目の存在は明確に確認されるべきであり、強力な、推定的であるかもしれないが、それなしに障害は起こらなかったという証拠がなければならない。ストレスが相対的に小さいか、あるいは時間的結合(3ヵ月未満)を立証することができないならば、現症に応じて他のどこかに分離すべきである。

診断基準:DSM-5

  1. はっきりと確認できるストレス因に反応して、そのストレス因の始まりから3ヵ月以内に情動面または行動面の症状が出現。
  2. これらの症状や行動は臨床的に意味のあるもので、それは以下のうち1つまたは両方の証拠がある。
  1. 症状の重症度や表現型に影響を与えうる外的文脈や文化的要因を考慮に入れても、そのストレス因に不釣り合いな程度や強度をもつ著しい苦痛。。
  2. 社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の重大な障害。
  1. そのストレス関連障害は他の精神疾患の基準を満たしていないし、すでに存在している精神疾患の単なる悪化でもない。
  2. その症状は正常の死別反応を示すものではない。。
  3. のストレス因、またはその結果がひとたび終結すると、症状がその後さらに6ヵ月以上持続することはない。

該当すれば特定せよ
急性:その障害の持続が6ヵ月未満。 持続性(慢性):その障害が6ヵ月より長く続く。

※参考文献
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)