こころのはなし

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社会[社交]恐怖[症]

F40.1 社会[社交]恐怖[症] Social phobias 社交不安症/社交不安障害(社交恐怖) Social Anxiety Disorder (Social phobia)

疾患の具体例

23歳、女性。1年ほど前から初対面の人と会うと恐怖を感じ、手が震えて顔が赤くなり、言葉につまるようになりました。うまく話せないことで相手に笑われるのではないか、という恐怖に襲われ、その場から逃げ出したくなります。接客業に就いていましたが、知らない人と会う機会を減らすため、事務職に転職しました。しかし、社内の会議で数名の前で発言しなければならない時、同じような症状が出ます。もともと大人しい性格でしたが、このままでは社会生活が営めないと思ってメンタルクリニックを受診すると「社会恐怖症」と診断されました。

特 徴

WHOによる診断ガイドライン「ICD-10」では、「社会(社交)恐怖(症)」を、人々から注視されることに恐怖を抱き、そうした状況を回避しようとする障害としています。例えば、人前で食事をしたり、発言したり、嘔吐するなどの社交場面に強い恐怖を感じます。人によっては、異性との食事など特定の場面に限定されます。重度の場合は、家族以外のほとんどすべての社交が恐怖の対象となり、ほとんど完全な社会的孤立に至ってしまう人もいます。
この障害のある人は、他人からの否定的な評価――例えば、弱い、ばかだ、どうかした、汚い、好きでないなどと判断されることを恐れています。相手に迷惑を掛け、その結果として拒絶されることを恐怖する人もいます。
恐怖を感じる時には、顔が赤くなったり、手が振えたり、発汗、凝視、言葉に詰まる、気分が悪くなる、もしくは頻尿になるなどの症状が現れます。そうした恐怖や不安は、社会背景を鑑みても状況に釣り合わないほど深刻です。少なくとも6カ月以上にわたって症状が持続する場合に、社会(社交)恐怖(症)と診断されます。 この障害は、退学したり、職場での生産性や社会経済的状況、生活の質が低下しやすいことと関連しています。特に男性では、独身、離婚、子どもをもたないこととも関連しています。趣味などの余暇活動を楽しめない原因にもなります。
症状の一つである「回避」は広範囲に及びます。パーティを欠席したり、不登校になったり、他人と視線を合わす回数を減らすなどが挙げられます。 なお、アメリカ精神医学会の診断と統計マニュアル「DSM-5 」では、「社交不安症」または「社交不安障害(社交恐怖)」の名称で、この障害を解説しています。それによると、恐怖の対象が公衆の面前で話したり動作をしたりすることだけで、他の状況では症状が現れない人は、「パフォーマンス限局型社交不安症」と診断されます。

有病率

アメリカにおける社交不安症の12ヵ月有病率は約7%と推定されています。加齢に従って有病率は減少し、より年齢の進んだ成人の12ヵ月有病率は2~5%です。一般人口の有病率は、概して男性よりも女性のほうが高いとされています。上の高齢者の12ヵ月有病率は0.4%です。 なお、広場恐怖症の症状が現れる前にパニック発作またはパニック症が起きる人は、一般人口で30%、臨床例では50%にのぼります。

経 過

DSM-5によると、アメリカにおける社交不安症の発症年齢の中央値は13歳で、75%が8~15歳で発症しています。強いストレス、または屈辱的な経験(例:いじめられる、人前で話しているときに嘔吐する)に引き続いて発症することがあります。自分では気付かないうちに徐々に病状が進むこともあります。 成人期の初発は比較的まれで、強いストレスや屈辱的な出来事、または新しい社会的役割を要求される生活の変化(例:異なる社会的階級出身者と結婚する、昇進する)のあとに発症しやすいことがわかっています。
一般人口では、社交不安症を伴う人の約30%が1年以内に寛解し、約50%が2~3年で寛解を経験します。治療を受けない人は、約60%が数年またはそれ以上の経過をとります。

原 因

気質要因:
行動抑制(人見知り・内気・はにかみ・引っ込み思案)と否定的評価に対する恐怖が、社交不安症のリスクとなる可能性があります。

環境要因:
子どもの頃に受けた虐待や、他の早発性の心理社会的困難の多さは、社交不安症の危険要因になります。

遺伝要因と生理学的要因:
社交不安症の素因となる傾向、例えば行動抑制は、遺伝要因に強く影響されています。

治 療

社会恐怖症の治療には、精神療法も薬物療法も有用です。どちらか一方よりも、併用するほうがよりよい結果が得られるという報告がありますが、すべての患者さんに当てはまるとは限りません。社会恐怖症に有効な薬は、SSRI、ベンゾジアゼピン系薬物、ベンラファキシン、ブスピロンです。

診断基準:ICD-10

確定診断のためには、以下のすべての基準が満たされなければならない。

  1. 心理的症状、行動的症状あるいは自律神経症状は、不安の一次的発現であり、妄想あるいは強迫思考のような他の症状に対する二次的なものであってはならない。
  2. 不安は、特定の社会的状況に限定されるか、あるいはそこで優勢でなければならない。
  3. 恐怖症的症状を可能な限り常に回避する。

診断基準:DSM-5

  1. 他者の注目を浴びる可能性のある1つ以上の社交場面に対する、著しい恐怖または不安。例として、社交的なやりとり(例:雑談すること、よく知らない人と会うこと)、見られること(例:食べたり、飲んだりすること)、他者の前でなんらかの動作をすること(例:談話をすること)が含まれる。 注:子どもの場合、その不安は成人との交流だけでなく、仲間達との状況でも起きるものでなければならない。
  2. その人は、ある振る舞いをするか、または不安症状を見せることが、否定的な評価を受けることになると恐れている(すなわち、恥をかいたり恥ずかしい思いをするだろう、拒絶されたり、他者の迷惑になるだろう)。
  3. その社交的状況はほとんど常に恐怖または不安を誘発する。 注:子どもの場合、泣く、かんしゃく、凍りつく、まといつく、縮みあがる、または、社交的状況で話せないという形で、その恐怖または不安が表現されることがある。
  4. その社交的状況は回避され、または、強い恐怖または不安を感じながら堪え忍ばれている。
  5. その恐怖または不安は、その社交的状況がもたらす現実の危険や、その社会文化的背景に釣り合わない。
  6. その恐怖、不安、または回避は持続的であり、典型的には6ヵ月以上続く。
  7. その恐怖、不安、または回避は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こす。
  8. その恐怖、不安、または回避は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。
  9. その恐怖、不安、または回避は、パニック症、醜形恐怖症、自閉スペクトラム症といった他の精神疾患の症状では、うまく説明されない。
  10. 他の医学的疾患(例:パーキンソン病、肥満、熱湯や負傷による醜形)が存在している場合、その恐怖、不安、または回避は、明らかに医学的疾患とは無関係または過剰である。

該当すれば特定せよ
パフォーマンス限局型:その恐怖が公衆の面前で話したり動作をしたりすることに限定されている場合。

※参考文献
『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『ICD-10精神および行動の障害臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
『カプラン臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)