こころのはなし

こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
「こころの病」についての知識をはじめ、
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性同一性障害

F64 性同一性障害 Gender identity disorders / 性別違和 Gender dysphoria

疾患の具体例

23歳、男性。子どもの頃から自分が男性であることを受け入れられず、女性らしい服装や、遊びを好んできました。それが原因で小学校時代にいじめられ、中学、高校も「自分は異常である」「生きている価値がない」と思い悩んでいました。大学生の頃に精神科を受診し、「性同一性障害」と診断されました。その後、ホルモン治療を受けて女性に近い外見を得て、ゲイのコミュニティーに参加するようになり、ようやく居場所を見つけたと安堵しています。

特 徴

出生時の性別について、不快感や不適当であるという意識を持つ障害です。もう一つの性の一員として暮らし、受け入れられたい願望を持ちます。服装や髪型などを、もう一つの性に近づけたスタイルにすることがあり、交遊相手ももう一つの性の人達が多くなる傾向があります。
青年後期に性的に活発になり、異性と交際をすることはあっても、たいていはパートナーに自分の性器を見せたり触らせたりしません。そのため、性的活動が制限されます。 医療機関を受診し、ホルモン療法や性別適合手術を求める人もいます。ただ、どちらか一方の治療で満足する人も多く見受けられます。性別の再適合を行う前は、自殺念慮や自殺企図、自殺遂行の危険性が高いとされています。治療のあとの適応はさまざまで、自殺の危険性が続く人もいます。

有病率

出生時が男性の成人では、有病率は0.005~0.014%、出生時が女性の成人では0.002~0.003%です。青年における男女差はほぼ同数。成人では、出生時が男性の割合が高く1:1~6.1:1です。

経 過

出生時が男性の青年期以降は、性別違和の発症様式は二つに分けられます。

早発性性別違和
小児期に始まり、青年期や成人期まで持続します。いったん中断することがますが、再発し、ゲイやホモセクシャルに自己同一性を見いだす人もいます。早発群は、晩発群より若いうちにホルモン治療や性別適合手術による治療を求めます。

晩発性性別違和
思春期前後か、それ以降に始まります。言葉で表出はしなかったものの、実は子どもの頃からもう一つの性になりたいと思っていた人もいます。晩発群は症状の程度にばらつきがあり、手術に対して両価的(一つの物事に対して、逆の感情を同時に持つこと)で、手術後に満足しにくい傾向があります。

原 因

原因不明のことが多いのですが、6例の性転換者を対象にした調査では、脳の赤核の大きさが男性より女性のものに近かったと報告されています。また、出生前のホルモンの状態より、出生後のできごとの影響が大きく、性別違和を持つ男性は年上の兄がいることが多いとされています。男女問わず、若干の遺伝的関与があると考えられています。

治 療

ホルモン療法
出生時が男性の人にはエストロゲン、女性にはテストステロンが投与されます。 エストロゲンを投与した患者さんは、通常すぐに平穏な感覚になります。勃起や性的衝動が少なくなり、精神的満足を得ます。数ヵ月後には、体が丸みを帯び、ある程度、乳房が大きくなり、睾丸は小さくなります。声質は変わりません。 アンドロゲンを投与した患者さんは、すぐに性的衝動が高まり、陰核のひりひり感と肥大があります。数ヵ月後には無月経と声変わりが起こります。

性転換手術(性別適合手術)
あとから引き返せないため、最終的な手段として選択されます。多くの人は、手術にいたる前にホルモン療法を受け、そこで満足します。しかし、約50%は手術に進みます。男性から女性への性転換者の約70%、女性から男性への性転換者の80%が手術の結果に満足していると報告されています。

異性装の治療
精神療法と薬物療法の組み合わせが有効であることが多いとされています。異性装は衝動的に起こることがあるため、衝動制御を強化する薬物療法がよく効く場合があります。行動療法、催眠なども一部の患者には有効かもしれません。

診断基準:ICD-10

診断のためには、性転換的な性同一性が少なくとも2年間持続していなければならず、それが統合失調症のような他の精神障害の一症状であったり、半陰陽の、あるいは遺伝的な、あるいは性染色体のいかなる異常とも関係するものであってはならない。

診断基準:DSM-5

  1. その人が体験し、または表出するジェンダーと、指定されたジェンダーの間の著しい不一致が、少なくとも6ヵ月、以下のうち2つ以上によって示される。。
  1. その人が体験し、または表出するジェンダーと、第一次および/または第二次性徴(または若年青年においては予測される第二次性徴)との間の著しい不一致。
  2. その人が体験し、または表出するジェンダーとの著しい不一致のために、第一次および/または性徴から解放されたい(または若年青年においては、予想される第二次性徴の発現をくい止めたい)という強い欲求。
  3. 反対のジェンダーの第一次および/または第二次性徴を強く望む。。
  4. 反対のジェンダー(または指定されたジェンダーとは異なる別のジェンダー)になりたいという強い欲求。
  5. 反対のジェンダー(または指定されたジェンダーとは異なる別のジェンダー)として扱われたいという強い欲求。
  6. 反対のジェンダー(または指定されたジェンダーとは異なる別のジェンダー)に定型的な感情や反応を持っているという強い確信。
  1. その状態は、臨床的に意味のある苦痛、または社会、職業、または他の重要な領域における機能の障害と関連している。

※参考文献
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)