こころのはなし

こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
「こころの病」についての知識をはじめ、
バラエティに富んだ情報を提供するなど、
患者様はもちろんご家族など皆様との交流を目指すコーナーです。

     

減弱精神病症候群(準精神病症候群)

減弱精神病症候群(準精神病症候群) Attenuated Psychosis Syndromer

特 徴

「減弱精神病症候群」は、精神病に似ているものの、精神病性障害の診断基準を完全に満たしていない症候群です。減弱精神病症候群の診断案では、「妄想」「幻覚」「まとまりのない発語」の3つが主要な症状で、いずれも程度は弱いとしています。精神病性障害に比べると重篤ではなく、一過性。なおかつ病識(自分が病気であるという認識)は比較的保たれています。 減弱精神病症候群と診断されるには、この症候群によって苦痛を感じ、社会的機能や役割機能に支障を来しており、診療を求めていることが必要です。

○妄想
弱い妄想の場合は、疑い深く、被害的な言動をすることがあります。あるいは「自分は優れた人間だ」などといった誇大的な内容のこともあります。妄想が中等度の人は、やたら他人を警戒し、他人のすることに悪意があると感じるかもしれません。「自分は特別な存在」「自分には影響力がある」などという誇大的な観念も持ちます。妄想が重度ではあるものの弱い範囲に留まっている場合は、それほど体系された信念ではありませんが、身の危険や周囲からの敵意を感じがちです。誇大妄想も生じ、そのために周囲の人に避けられるようになることがあります。

○幻覚
弱い幻覚は、通常、聴覚や視覚の変化として現れます。中等度の幻覚は、あまりはっきりしない音や像を感じます。例えば、影や痕跡、暈(太陽や月の周りに見える光の輪っか)、ざわめきなどで、それが謎めいたものとして体験します。幻覚が重度になると、そうした体験がよりリアルかつ頻回になります。幻覚によって混乱する人もいますが、本当に存在するものなのかを疑う人もいるかもしれません。

○まとまりのない発語
この症状は、以下のような状態で表出します。
●奇妙な発語(あいまい、比喩的、過度に念入り、紋切り型)
●焦点の定まらない会話(混乱、不明瞭、速すぎるまたは遅すぎる、単語の誤り、関係のない文脈、脱線)
●とりとめのない会話(まわりくどい、的外れ)
症状が中等度の場合は、しばしば話が脱線しながらも、ハッキリした質問には即答できます。しかし、話をうまくまとめることができず、他人の助けを借りなければ話の主題に到達できないかもしれません。
重度の人は、途中で思考が断絶する場合があります。周囲が筋道を着けるような質問をすれば、まとまりのある話ができるようになるかもしれません。

※注意 ここに掲載した一連の基準は臨床現場で用いるためのものではありません。DSMの公式の精神疾患診断として採用するには証拠が不十分ですが、今後の研究のために専門家によって示され、検討されている案です。

有病率

この症候群の有病率はわかっていませんが、若干、男性のほうが多いと考えられています。診断基準となっている3つの症状「妄想」「幻覚」「まとまりのない発語」は珍しいものではなく、幻覚と妄想的思考は8~13%の頻度で存在します。

経 過

通常、青年期中期~後期に発症します。発症前は正常な発達だった人もいますが、認知面の障害、陰性症状、対人発達の障害がある人もいるかもしれません。また、援助を求めるグループを観察した結果では、1年以内に約18%、3年以内に32%の症状が進行し、何らかの精神病性障害の基準を満たすようになっていました。頻度が高いのは統合失調症スペクトラム障害への発展で、ほかに精神病性の特徴を伴う抑うつ障害、双極性障害へと移行する場合もあります。
一方で、この診断を受けた人のかなりの割合は、時間とともに改善していきます。多くの人は、軽い症状と障害を持ち続け、他の多くの人は完全に回復します。

原 因

気質要因:
陰性症状の存在、認知障害、機能の不良は、予後が悪くなったり、精神病への移行を増大したりするリスク要因だと考えられています。

遺伝要因と生理学的要因:
減弱精神病症候群のある人で、精神病の家族歴がある場合は、本格的な精神病性障害を発症する危険が高まります。

診断基準:DSM-5

  1. 以下の症状のうち少なくとも1つが弱い形で存在し、現実検討は比較的保たれており、臨床的関与に値する程度の重症度または頻度を有している。
  1. 妄想
  2. 幻覚
  3. まとまりのない発語
  1. 上記の(1つまたは複数の)症状は、過去1カ月の間に少なくとも週1回は存在していなければならない
  2. 上記の(1つまたは複数の)症状は、過去1年の間に始まったか、あるいはその間に増悪していなければならない。
  3. 上記の(1つまたは複数の)症状は、臨床的関与に値するほど苦痛を与え、能力を低下させている。
  4. 上記の(1つまたは複数の)症状は、精神病性の特徴を伴う抑うつ障害または双極性障害を含む他の精神疾患によってうまく説明されるものではなく、物質または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。
  5. どの精神病性障害の基準も満たされたことはない。

※参考文献
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト 日本語版第3版』(メディカルサイエンスインターナショナル)