こころのはなし

こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
「こころの病」についての知識をはじめ、
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患者様はもちろんご家族など皆様との交流を目指すコーナーです。

     

重度精神遅滞[知的障害]

F72 重度精神遅滞[知的障害] Sever mental retardation

疾患の具体例

31歳、女性。乳児期の頃から言葉の発達に遅れがあり、周囲と交流できずにいました。身体的な発達も遅れ、3歳で重度精神遅滞と診断されました。移動に車いすを必要とする時もあります。小学校は特別支援学校に入学し、高等部まで進学しました。卒業してからは、家族の支援を受けながら主に自宅で過ごしています。最近は、両親が高齢になってきました。周囲の人達は、近い将来、グループホームに入所させることを検討しています。

特 徴

重度精神遅滞は、IQが20~34の範囲内とされています。症状は、中程度精神遅滞と似通っていますが、読み書きや数を数えること、時間の理解や金銭管理などはほとんどできません。生涯を通じて、食事、身支度、入浴および排泄など広範囲におよぶ支援を必要とします。また、ほとんどの人に顕著な運動障害や、中枢神経系の障害を併発します。そのため、身体的な発達が十分に達成できない例が多く見られます。発語は最小限で、自分の要求をはっきり伝えられないため、体を使ったコミュニケーションが強化されます。家族や親しい人との関わりは、本人にとっての楽しみでもあります。

有病率

精神遅滞全体のおよそ4%だと報告されています。

経 過

日々の生活、ならびに適切なトレーニングによって、生活する上で必要な単語を認識したり、意思疎通技能を発達させたりすることができます。小児期にしばしば数えることを学ぶ人もいます。継続的な支援を必要としますが、成人期にはグループホームのような環境にうまく適応できることもあります。適切な監督者のもとでは、仕事に関連する作業ができることもあります。

診断基準:ICD-10

IQは通常20~34までの範囲である。

診断基準:DSM-5

概念的領域
概念的な能力の獲得は限られている。通常、書かれた言葉、または数、量、時間、および金銭などの概念をほとんど理解できない。世話する人は、生涯を通じて問題解決にあたって広範囲におよぶ支援を提供する。

社会的領域
話し言葉は語彙および文法に関してかなり限られる。会話は単語あるいは句であることもあれば、増補的な手段で付け足されるかもしれない。会話およびコミュニケーションは毎日の出来事のうち、今この場に焦点が当てられる。言語は解説よりも社会的コミュニケーションのために用いられる。単純な会話と身振りによるコミュニケーションを理解している。家族や親しい人との関係は楽しみや支援の源泉である。

実用的領域
食事、身支度、入浴および排泄を含むすべての日常生活上の行動に援助を必要とする。常に監督が必要である。自分自身あるいは他人の福利に関して責任ある決定をできない。成人期において、家庭での課題、娯楽、および仕事への参加には、継続的な支援および手助けを必要とする。すべての領域における技能の習得には、長期の教育と継続的な支援を必要とする。自傷を含む不適応行動は、少数ではあるが意味のある数として存在する。

※参考文献
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)