こころのはなし

こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
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残遺[型]統合失調症

F20.5 残遺[型]統合失調症 Residual schizophrenia

疾患の具体例

28歳、男性。2年ほど前から妄想型統合失調症で入院していました。治療の甲斐があって、ひどく苦しめられていた幻覚や妄想は、あまり見られなくなりました。見舞いに来る家族は、ここ1年ほどは症状が落ち着いているように感じ、「そろそろ退院し、社会復帰を目指してもよいのでは」と医師にたずねました。しかし、患者本人はいつも表情が乏しく、何事にも無気力で物事への関心が薄い状態が続いています。医師は「残遺型統合失調症の状態にあり、退院まではまだ時間が必要である。退院後もケアが必要」と説明しました。

症 状

残遺型統合失調症は、妄想型や解体型、緊張型といった統合失調症の初期段階が過ぎつつも、症状が残っている状態を指します。幻覚や幻聴などの陽性症状は軽いため、治ったように見えるかもしれません。しかし、無気力な状態で、会話量とその内容が貧困になり、表情や視線、声の抑揚が乏しくなるなど、いわゆる陰性症状が長期間にわたって続きます。少なくとも1年以上、人によっては10年以上続くケースもあります。この症状は、うつ病や、施設症(病院など狭い空間に長期間いることで生じる心身の症状)とは区別して診断されます。 また、再び妄想型などの状態に戻らないとは限らず、用心しなければなりません。急に薬を減らしたり、中断したりせず、継続して治療を受ける必要があります。

治療・予後

一般的に、無気力や活動性の低下などの陰性症状は、あまり抗精神病薬が効かないとされています。そのため、残遺型統合失調症の治療は、医療機関の精神科リハビリテーションや作業所などでのケアが中心になることがあります。周囲は、時間をかけて少しずつ回復に向かうように支えることになります。

診断基準:ICD-10

確定診断のためには、以下の条件が満たされていなければならない。

  1. 統合失調症の「陰性」症状が支配的であること。すなわち、精神運動の緩慢、活動性の低下、感情鈍麻、受動性と自発性欠如、会話量とその内容の貧困、表情、視線、声の抑揚そして身振りによる非言語的なコミュニケーションの乏しさ、自己管理と社会的遂行能力の低下。
  2. 統合失調症の診断基準を満たすような、はっきりした精神病エピソードが少なくとも1回は存在した証拠があること。
  3. 少なくとも1年間は、妄想や幻覚のような多彩な症状が、その頻度や重症度において極めて軽微であるか、かなり減弱しており、かつ「陰性」の統合失調症症候群も存在していること。
  4. 認知症や他の脳器質性疾患および障害が存在せず、陰性の障害を説明するのに十分なほどの慢性の抑うつや施設症(institutionalism)が認められないこと。

患者の以前の病歴に関する十分な情報が得られず、それゆえ過去のある時期に統合失調症の診断基準を満たしたか否かが確定できない場合には、残遺統合失調症の診断は、暫定的なものとしなければならない。

診断基準:DSM-5

記載なし

※参考文献
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)