こころのはなし

こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
「こころの病」についての知識をはじめ、
バラエティに富んだ情報を提供するなど、
患者様はもちろんご家族など皆様との交流を目指すコーナーです。

     

軽躁病

F30.0 軽躁病 Hypomania

疾患の具体例

42歳、男性会社員。1年前に昇進し、責任の重い役職に就きました。海外出張が多く、睡眠時間は不規則です。日によって3時間しか眠らなかったり、8時間も眠り続けたりすることがあります。それでも、本人は疲れを表に出すことなく、忙しく働いていました。元来、まじめな性格でした。ところが、1週間ほど前、同僚の女性になれなれしく触ってしまい、セクハラであると会社に注意されました。同じ頃から、やたらおしゃべりになり、不気味なほどに上機嫌な時が増えました。一方で、イライラし、何かに焦ったように見えることもあります。心配した妻と医療機関を受診すると「軽躁病」と診断されました。

症 状

いわゆる躁病の軽いタイプです。軽い気分の高揚が数日間続き、気力と活動性が高まります。体も精神も好調であるように感じ、自尊心や自己肯定感が強まります。普段に増しては社交的になったり、よくしゃべったり、やたらなれなれしかったりもします。あまり眠気を感じず、3時間ほどの睡眠で「十分よく寝た」と感じることがあります。また、人によっては性的な活動も活発になったり、不要な買い物をして浪費したりすることもあります。
そうかと思うと、何かあるとすぐに怒り出し、イライラすることが増えます。気まぐれで粗野な行動は、はた目からもよくわかるほどです。
しかし、これらの症状によって仕事ができなったり、人付き合いが破綻したりするほどではありません。注意力や集中力が弱くなり、仕事をしたりのんびり暇を楽しんだりすることは難しくなりますが、何か新しいことに対する興味がなくなることはありません。
また、一連の症状は幻覚や妄想を伴いません。

予 後

異常に元気で活発になった状態が、少なくとも4日は持続します。

診断基準:ICD-10

高揚した気分や変化した気分と活動性の増大と一致する上記の症状うちいくつかが、少なくとも数日間持続し、気分循環症に記載されている症状より程度が重症で、長く持続しなければならない。軽躁病の診断は、仕事や社会的活動のかなりの程度の障害がなければならないが、その障害が重症で完全なものであれば、躁病と診断すべきである。

断基準:DSM-5

  1. 気分が異常かつ持続的に高揚し、開放的あるいは易怒的となる。加えて、異常にかつ持続的に亢進した活動または活力のある、普段とは異なる期間が、少なくとも4日間、ほぼ毎日、1日の大半において持続する。
  2. 気分が障害され、かつ活力および活動が亢進した期間中、以下の症状のうち3つ(またはそれ以上)(気分が易怒性のみの場合は4つ)が持続しており、普段の行動とは明らかに異なった変化を示しており、それらは有意の差をもつほどに示されている。
  1. 自尊心の肥大、または誇大
  2. 睡眠欲求の減少(例:3時間眠っただけで十分な休息がとれたと感じる)
  3. 普段より多弁であるか、しゃべり続けようとする切迫感 (4)観念弄逸、またはいくつもの考えがせめぎ合っているといった主観的な体験
  4. 注意散漫(すなわち、注意があまりにも容易に、重要でないまたは関係のない外的刺激によって他に転じる)が報告される。または観察される。
  5. 目標指向性の活動(社会的、職場または学校内、性的のいずれか)の増加。または精神運動焦燥
  6. 困った結果になる可能性が高い活動に熱中すること(例:制御のきかない買いあさり、性的無分別、あるいはばかげた事業への投資などに専念すること)
  1. 本エピソード中は、症状のない時のその人固有のものではないような、疑う余地のない機能的変化と関連する。
  2. 気分の障害や機能の変化は、他者から観察可能である。
  3. 本エピソード、社会的または職業的機能に著しい障害を引き起こしたり、または入院を必要としたりするほど重篤ではない、もし精神病性の特徴を伴えば、定義上、そのエピソードは躁病エピソードとなる。
  4. 本エピソードは、物質(例:薬物乱用、医薬品、あるいは他の治療)の生理学的作用によるものではない。

注:抗うつ治療(例:医薬品、電気けいれん療法)の間に生じた完全な軽躁病エピソードが、それらの治療により生じる生理学的作用を超えて十分な症候群に達して、それが続く場合は、軽躁病エピソードと診断するのがふさわしいとする証拠が存在する。しかしながら、1つまたは2つの症状(特に、抗うつ薬使用後の、易怒性、いらいら、または焦燥)だけでは軽躁病エピソードとするには不十分であり、双極性の素因を示唆するには不十分であるという点に注意を払う必要がある。

※参考文献
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)