こころのはなし

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物質・医薬品誘発性双極性障害および関連障害

物質・医薬品誘発性双極性障害および関連障害 Substance/Medication-Induced Bipolar and Related Disorder

疾患の具体例

22歳、男性。ある精神疾患の治療のために精神刺激薬を使用することになりました。3回目に服薬して数十分がたつと、明らかに気分が高揚し、自分は素晴らしい人間だ、不可能なことはないと思うようになりました。衝動的に高価な品物をたくさん買い混み、いつもはしない自分の自慢話や、人を傷つける発言を繰り返します。あまりにハイテンションなので、心配した親に連れられてメンタルクリニックを訪れました。

特 徴

「物質・医薬品誘発性双極性障害および関連障害」は、何らかの物質や医薬品によって双極性障害が引き起こされることが基本的特徴です。 通常の双極性障害と同じように、躁病(または軽躁病)によって気分が高揚したり、開放的になったり、怒りっぽくなったりします。無謀な買い物をしたり、無理のある仕事の計画を実行したりすることもあります。あわせて、抑うつ症状も生じ、全ての活動に対する興味が著しく低下する場合があります。躁病(または軽躁病)と抑うつ状態という両極端な精神状態を繰り返すことが特徴的です。ただし、抑うつ症状が生じない人もいます。

「通常の双極性障害との区別には2つの考慮すべきポイントがあります。一つは、症状が現れる前に摂取した物質・医薬品に、双極性障害が生じる可能性があること。もう一つは、それらを摂取したあとのタイミングで、躁病(または軽躁病)が現れることです。物質・医薬品を摂取したあとに、それらの効果を逸脱して作用が続くような場合、「物質・医薬品誘発性双極性障害および関連障害」と診断される可能性があります。 一方で、物質・医薬品を使用する前から双極性障害の症状があり、薬の離脱や中毒症状が終わった後も長い期間(例:1カ月)にわたって続く場合は、通常の双極性障害または関連障害と考えられます。 電気けいれん療法によって引き起こされたことが明白な躁病(または軽躁病)のある人が、その治療の効果を逸脱して作用が続く場合も、通常の双極性障害と診断されます。

抗うつ薬および他の向精神薬は、副作用でいらだちや焦燥感が生じることがあります。それらは躁病の症状に似ていますが、双極性障害とは基本的に異なります。物質・医薬品に誘発されたと診断するには、いらだちや焦燥感、怒りやすさが1~2つあるだけでなく、十分な躁または軽躁症候群も存在しなくてはなりません。 なお、昨今は「物質・医薬品誘発性双極性障害および関連障害」の原因となりうる新しい物質が次々に登場しています。「合成麻薬」と呼ばれますが、このような物質の使用歴があると、診断の確かさが高まると考えられます。

有病率

DSM―5によると、「物質・医薬品誘発性双極性障害および関連障害」に関する疫学的研究は存在しないそうです。

経 過

症状の経過は、原因となる物質・医薬品によって異なります。

例1)フェンシクリジン
この物質を摂取したあと数時間以内(遅くとも数日以内)に症状が現れます。感情の変化を中心としたせん妄(イライラ、興奮、錯乱、不安、眠気、活動性の低下または過活発など)から始まり、そのあとに躁病または混合躁病状態(躁とうつが混ざった状態)になることがあります。
例2)精神刺激薬
摂取(または注射)をしてから数分~1時間以内と早い段階で症状が生じます。症状が収束するのも早く、典型的には1~2日です。
例3)副腎皮質ステロイド(または免疫抑制剤)
通常は、服用から数日後に躁病(または混合状態か、抑うつ状態)が現れます。服薬量が多いほど、双極性症状の出現率が高まるようです。

原 因

原因となる物質・医薬品はさまざまで、アルコールやカフェインといった身近なものから、抗うつ薬、向精神薬などが挙げられます。フェンシクリジンやステロイドなど精神刺激薬が原因となることもあります。

診断基準:DSM-5

  1. 顕著で持続性の気分の障害が臨床像において優勢で、高揚した、開放的な、または易怒的な気分によって特徴づけられる。抑うつ気分、またはすべてのまたはほとんどすべての活動に対する興味または喜びの著しい低下を、伴う場合と伴わない場合とがある。
  2. 病歴、身体診察所見、または検査所見から、(1)および(2)の証拠がある。 基準Aの症状は、物質中毒または離脱の期間中またはその直後か、医薬品曝露後に出現した。 その物質・医薬品は基準Aの症状を引き起こすことが可能である。
  3. その障害は、物質・医薬品誘発性ではない双極性障害または関連障害ではうまく説明されない。物質・医薬品誘発性ではない独立した双極性障害または関連障害で説明されるという証拠には、以下のものが含まれる。 症状が物質・医薬品使用の開始に先行する:症状が急性の離脱または重度の中毒が終わった後、かなりの期間(例:1カ月)持続する;または物質・医薬品誘発性ではない双極性障害および関連障害が独立して存在することを示唆する他の証拠(例:物質・医薬品誘発性ではない反復エピソード)がある。
  4. その障害は、せん妄の経過中にのみ起るものではない。
  5. その障害は、臨床的意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における昨日の障害を引き起こしている。

※参考文献
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)