こころのはなし

こころの病気に関わるいろいろなお話を紹介します。
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気分循環症/気分循環性障害

F34.0 気分循環症 Cyclothymia 気分循環性障害 Cyclothymic disorder

疾患の具体例

28歳、女性。仕事をしていると憂うつで仕方がなく、いわゆる新型うつ病ではないかと思って精神科を受診しました。ところが、過去の気分の移り変わりを問診などされた結果、「気分循環症」と診断されました。自分では気分の調子のいい時、悪い時があるくらいに思っていたのですが、そうした不安定な状態が10代の頃から続いており、すでに日常生活に支障を来しているためです。具体的には、躁状態の時に積極的に異性にアプローチし、結婚するも、しばらくして鬱状態になり、短期間で離婚することを2度も経験しています。同じ理由で仕事も続かず、生活が困窮しています。

特 徴

気分循環症は、持続的に気分が不安定で、軽い抑うつや軽い高揚の期間を何回も繰り返す障害です。成人では少なくとも2年間、子どもや青年では1年間にわたって症状が継続した時に診断されます。軽躁症状も抑うつ症状も、いわゆる軽躁エピソードや抑うつエピソードの基準を完全に満たすほど重篤ではありません。双極Ⅱ型障害の軽症例であるとも言われますが、気分の移り変わりの周期はより短いともされています。 時には気分が安定した状態が数ヵ月続くことがあります。高揚気分の時期は楽しいもので、患者さん自身は「調子がいい」と勘違いしやすい面があります。一部の患者さんは、わずかな睡眠時間で高い業績をあげ、仕事も私生活も活気づいて見えます。そのため、周囲からも異変に気づきにくい傾向があります。しかし、長期経過全体として見れば、社会的、職業的、または他の重要な領域における障害が生じています。患者さんが受診する時は、鬱状態のタイミングが多く見られます。 予測不能の気分変化を持つ期間が長いため、職場や学校などでは、「気まぐれ」「気分屋」「一貫性がない」「信頼できない」などと見なされることがあります。躁状態の時にイライラしたり、突拍子もない行動に出たりすることから、夫婦間や親族関係で問題を起こしやすいとも言われています。

原 因

また、物質関連障害の家族の危険性も高い可能性があります。

有病率

ある調査によると、気分循環障害の患者さんは、精神科外来患者全体の3~5%とされています。一般人口における割合は1%と見積もられています。男女比は3対2で男性のほうが多く、患者さん全体の50~75%は15~25歳の間に発症します。

経 過

成人期を通して持続し、時には双極性感情障害や反復性うつ病性障害の診断基準を満たすほど重症な気分変動へと発展することがあります。双極I型障害または双極Ⅱ型障害に進展する可能性は15~50%です。一方で、一時的あるいは永続的に気分循環障害の症状が停止したりすることもあります。 通常、青年期または成人期早期に発症しますが、最初は潜行性に進行し、自分でも障害に気づきにくい傾向があります。なお、子どもの発症の平均年齢は6.5歳です。症状が顕在化するのは、10代から20代前半で、そのことによって学業や友人関係に問題が生じやすい面があります。患者さんの3分の1は大うつ病に進行するとも言われています。

治 療

治療の第一選択肢は、気分安定剤と抗躁薬です。薬物の投与量と血中濃度は、双極I型障害の場合と同様です。気分循環障害は、抗うつ薬によって軽躁病相や躁病相を生じやすいため、注意が必要です。抗うつ薬治療を受ける患者さんの40~50%がそのような病相を経験すると報告されています。 薬物治療以外には、心理社会的治療があります。家族療法や集団療法を通じて、自分自身の状態に気づかせ、対処法を身につけることを援助する方法です。患者さんが躁病相の時に生じた家族間のトラブルや、職業上の問題を修復する手助けもします。気分循環障害は長期にわたるため、しばしば生涯にわたる治療を必要とします。

診断基準:ICD-10

本質的な特徴は持続的な気分の不安定さであり、軽い抑うつや軽い高揚の期間が何回も見られるが、いずれも双極性感情障害や反復性うつ病性障害の診断基準を満たすほど重症であったり遷延したりしない。このことは、個々の気分変動のエピソードが躁病エピソードあるいはうつ病エピソードの項に記述されたいずれのカテゴリーの診断基準も満たさないことを意味している。

診断基準:DSM-5

  1. 少なくとも2年間(子どもおよび青年の場合は少なくとも1年間)にわたって、軽躁症状を伴うが軽躁病エピソードの基準は満たさない多数の期間と、抑うつ症状を伴うが抑うつエピソードの基準は満たさない多数の期間が存在する。
  2. 上記2年間の期間中(子どもおよび青年の場合は1年間)、少なくとも半分は軽躁および抑うつを伴う期間であり、症状がなかった期間が一度に2ヵ月を超えない。
  3. 抑うつエピソード、躁病エピソード、または軽躁病エピソードの基準は満たしたことがない。
  4. 基準Aの症状は、統合失調感情障害、統合失調症、統合失調症様障害、妄想性障害、または、他の特定されるまたは特定不能の統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害ではうまく説明されない。
  5. 症状は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患(例:甲状腺機能亢進症)の生理学的作用によるものではない。
  6. 症状は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

※参考文献
『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)
『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)