こころのはなし

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障害者雇用について

障害者雇用に関する情報、知識をご紹介します。

精神障害のある人の雇用状況

厚生労働省が公表している「障害者雇用状況」(2019年)によると、民間企業や公的機関で雇用されている障害者は年々増加しています。例えば民間企業の場合、雇用障害者数は56万608人で対前年比4.8%(2万5839人)増加。「実雇用率」(雇用されている全ての人のうち、障害者の割合)は2.11%で対前年比0.06ポイントの上昇。従業員数45.5人以上の企業に求められる「法定雇用率」(障害者の雇用率を2.2%にすること)を達成した企業の割合は48%で対前年比2.1ポイント上昇でした。

民間企業に雇用される障害者のうち、身体障害者は35万4134人(対前年比2.3%増)、知的障害者は12万8383人(同6%増)、精神障害者は7万8091人(同15.9%増)で、精神障害者の雇用は大きく伸びていることがわかります。2018年4月から、法定雇用率や実雇用率の算定に精神障害者も含まれるようになったことから、雇用する企業が増えてきていると思われます。

実雇用率と雇用されている障害者の数の推移

実雇用率と雇用されている障害者の数の推移

(出典)令和元年「障害者雇用状況」集計結果

厚労省の「障害者雇用実態調査」(平成30年度)によると、精神障害者を雇用している産業は「卸売業・小売業」が53.9%と最も多く、次いで「医療・福祉」17.6%、「サービス業」9.4%の順になっています。職業別には「サービスの職業」(30.6%)、「事務的職業」(25%)、「販売の職業」(19.2%)の順に多くなっていました。 雇用形態はいわゆる非正規社員が多いようで、「無期契約の正社員以外」(46.2%)、「有期契約の正社員以外」(28.2%)に対し、「無期契約の正社員」(25%)、「有期契約の正社員」(0.5 %)でした。 賃金に関しては、週当たりの所定労働時間が30時間以上の人が18万9千円、週20時間~30時間未満の人は7万4千円、週20時間未満の人は5万1千円でした。

事業者は、雇用にあたって精神障害者保健福祉手帳か医師の診断などで精神障害者であることを確認しています。雇用されている精神障害の等級は2級(46.9%)、3級(36.3%)が多く、疾病別には統合失調症(31.2%)、躁うつ病・気分障害(25.8%)で過半数を占めました。

しかし、精神障害者の就労が増えているにしても、職場定着率は低い水準になっています。「障害者の就業状況等に関する調査研究」(2017年、独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構)によると、精神障害者の就職から1年後の定着率は49.3%でした。発達障害者71.5%、知的障害者68%、身体障害者60.8%に比べると、10%以上の開きがあります。

実雇用率と雇用されている障害者の数の推移

実雇用率と雇用されている障害者の数の推移

(出典)「障害者の就業状況等に関する調査研究」(2017年、独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構)

では、なぜ精神障害の職場定着が難しいのでしょうか。少し古い統計ですが、厚労省の「障害者雇用実態調査」(平成25年度)には、精神障害者が離職した理由(個人的理由)が記されています。「職場の雰囲気・人間関係」(33.8%)が最も多く、次いで「賃金、労働条件に不満」(29.7%)「仕事内容があわない」(28.4%)といった条件面の問題が多くあげられています。また、「疲れやすく体力意欲が続かなかった」(28.4%)、「症状が悪化(再発)した」(25.7%)という体調面の理由も上位にありました。 仕事を続けていくために職場で改善が必要とされていることは、「能力に応じた評価、昇進・昇格」(31.2%)が最も多く、次いで「調子の悪いときに休みを取りやすくする」(23.1%)でした。今よりいっそう柔軟な働き方が必要となっています。

2020年4月からは「改正障害者雇用促進法」にもとづいて、短時間勤務の障害者を雇用する事業主への支援制度が始まります。障害者手帳を持っている障害者で、週所定労働時間が10時間~20時間の人を1年以上雇用している(または雇用する見込みの)事業者に、国が特例給付金を支給するのです。こうした施策によって、「短い時間であれば働ける」という精神障害者の雇用が広がり、徐々に職場定着率も上昇することが期待されています。

精神障害のある人の雇用(事業者側の状況)

精神障害のある人で、就職を希望する人は増加しています。厚生労働省が発表した「平成30年度 障害者の職業紹介状況」によると、平成30年度にハローワーク(公共職業安定所)を通じて障害者が新たに求職した件数は21万1271件で、対前年度比4.5%の増加。そのうち精神障害者の新規求職申込件数は10万1333件(対前年度比8.1%増)で大きな割合を占めています。また、ハローワークで精神障害者が求職したケースのうち、就職に至った数は4万8040件で、対前年度比6.6%増でした。

精神障害者を雇用するために、事業者側も配慮しています。同省の「平成30年度障害者雇用実態調査結果」によると、55%の事業者が何らかの配慮をしており、その内容は「短時間勤務等勤務時間の配慮」が70.8%で最も多く、次いで「通院・服薬管理等雇用管理上の配慮」が52.4%、「休暇を取得しやすくする、勤務中の休憩を認める等休養への配慮」が50.5%でした。

現在配置している事項

一方で、同調査によると、精神障害者の雇用に課題もあることがわかります。課題が「ある」と回答した事業者は72.5%で、その内容は「会社内に適当な仕事があるか」が70.2%と最も多く、次いで「障害者を雇用するイメージやノウハウがない」が49.7%、「従業員が障害特性について理解することができるか」が37.4%でした。 また、精神障害者を雇用しない理由は、「当該障害者に適した業務がないから」が79.6%、次いで「職場になじむのが難しいと思われるから」が33.9%、「施設・設備が対応していないから」が26%でした。

精神障害者の今後の雇用方針については、「積極的に雇用したい」が7.5%、「一定の行政支援があった場合雇用したい」が12.4%、「雇用したくない」が26%でした。雇用したくない事業者の多さは残念ですが、それ以上に多い回答は「わからない」54.1%で、事業者側への支援が必要だと思われます。 現状、精神障害者の募集・採用にあたって、関係機関に協力を求めたことのある事業所は16.7%と低い水準です。ただ、相談先は「公共職業安定所」が77.6%、次いで「障害者就業・生活支援センター」が27.1%でした。それぞれ、意欲的な支援を行っています。

公共職業安定所では、一般の従業員を対象に「精神・発達障害者しごとサポーター養成講座」を開催しています。精神障害(発達障害を含む)の理解を深めるための講座で、公共職業安定所の職員が講師となり、精神障害の種類や特性、コミュニケーション上のポイントなどを解説します。講座を受講した人は「精神・発達障害者しごとサポーター」となって、精神障害や発達障害のある人の働きやすい職場を応援する役割が期待されています。

また、障害者就業・生活支援センターは、雇用や保健福祉、教育など関係機関の連携拠点です。障害者の就労や生活の支援と、事業者の雇用支援や職場定着支援を行っています。2019年時点で全国に334センターが設置されています。活動内容はそれぞれ多少異なりますが、障害に関する基本的な情報提供や、雇用方法や管理についてのアドバイス、ジョブコーチ(職場適応援助者)による支援などを行っています。こうした支援策のいっそうの拡大が求められるところです。

なお、「平成30年版 厚生労働白書」によると、「地域や職場で障害や病気で困っている者がいたら助けたいか」という質問に対し、「積極的に助けたいと思う」と「助けたいと思う」と答えた人の合計は過半数を超えています。特に、障害や病気のある人が身近にいる人は76.9%と多く、次いで障害や病気のある当事者が67.3%、その他の人も55.4%でした。           

障害や病気を有する者が職場にいる場合の影響

また、障害や病気のある人が職場にいる場合の影響は、「仕事の進め方について職場内で見直すきっかけになった」という前向きな回答が最多でした。特に、障害や病気の当事者はそう感じており(36.6%)、自分は障害や病気がない人の回答も28.5%でした。 一方で、自分は障害や病気がない人の25%は「仕事の負担が重くなった」と感じています。精神障害のある人が安心して就業するには、当事者への支援はもとより、職場環境全体の改善が欠かせないように思われます。 

発達障害のある人の雇用状況

2018年4月より発達障害者が企業(従業員数45.5人以上)の雇用義務に含まれるようになりました。企業は、身体障害者、知的障害者、精神障害者、発達障害者のいずれかを雇用しなければならず、従業員に対する障害者の割合は「2.2%」(法定雇用率)を超えることが法律で定められています。

厚生労働省が発表した「平成30年度 障害者雇用実態調査」によると、事業者に雇用されている障害者82万1000人のうち、発達障害者は3万9000人でした。ここでいう発達障害者とは「精神科医により、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害等の発達障害の診断を受けている者」と定義されています。事業者側は雇用にあたり、精神障害者保健福祉手帳、もしくは精神科医の診断などによって、発達障害であることを確認します。雇用されている発達障害者の障害等級は「3級」が48.7%で最も多く、疾患別では「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害」が76%と大部分を占めました。

発達障害のある人の雇用状況

また、年齢は30~34歳が23.8%と最も多く、次が20~24歳の21.6%で、比較的、若い人たちが多いことが分かります。発達障害は他の障害に比べると新しい概念であり、診断を受けた人が比較的若いことが関係しているかもしれません。 発達障害者を雇用している事業者を産業別に見ると「卸売業・小売業」が53.8 %と最も多く、次いで「サービス業」15.3%、「医療、福祉」11.6%でした。 職業別には「販売の職業」が39.1%と最も多く、次いで「事務的職業」29.2%、「専門的、技術的職業」12%の順でした。事業所の規模は5~29人規模が58.5%と最も多く、次いで30~99人規模28.3%、100~499人規模9.9%でした。

発達障害のある人の雇用状況

雇用形態は、いわゆる非正規社員が多いようです。「有期契約の正社員以外」が45.9%、「無期契約の正社員以外」が31.3%、「無期契約の正社員」は21.7%でした。1週間に働いている時間(週所定労働時間)別には、通常(30時間以上)が59.8%と最も多く、次いで20時間以上30時間未満が35.1%でした。 賃金の平均は、週所定労働時間が通常(30時間以上)で16万4000円、20時間以上30時間未満の人が7万6000円、20時間未満の者が4万8000円でした。精神障害者の平均賃金に比べると、少し低い水準でした。

ただし、発達障害者の職場定着率は比較的高いようです。「障害者の就業状況等に関する調査研究」(2017年、独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構)によると、就職後3か月時点の定着率は、身体障害77.8%、知的障害85.3%、精神障害69.9%、発達障害84.7%でした。就職後1年時点の定着率でも発達障害者が高い水準で、身体障害60.8%、知的障害68.0%、精神障害49.3%、発達障害71.5%でした。 同調査によると、就職前に公共職業安定所(ハローワーク)や支援機関による支援を受けた場合などに、定着率が高いようです。

ハローワークでは様々な支援を行っています。一部のハローワークでは、「発達障害者雇用トータルサポーター」を配置し、発達障害のある求職者に対してカウンセリング、就職準備プログラムの実施、職場実習のコーディネートなどの支援を行っています。また、「若年コミュニケーション能力要支援者就職プログラム」といって、若年求職者(34歳以下)で発達障害などを理由にコミュニケーションが難しい人に対し、「就職支援ナビゲーター」が個別支援をする取り組みもあります。支援内容はカウンセリングや面接への同行、対人機能トレーニングなどです。発達障害と診断がついていなくても、不採用が連続していたり、短期間で離転職を繰り返していたりする人も支援対象です。

また、地域障害者職業センターには、発達障害者の社会生活技能や作業遂行能力などを向上させるための「発達障害者就労支援カリキュラム」があります。カリキュラムは12週間程度で、前半は同センター内で問題解決技能や対人技能、リラクゼーション技能を身につけ、後半は事業所での体験実習を実施します。逐次、個別相談に応じながら、求職支援も行っています。 ハローワークは他の支援機関と連携しています。発達障害があり、これから就職を検討している人は、ひとまずハローワークに相談してみてはいかがでしょうか。